鍵
117話目です。
オリバー達はティリルについていくように森を歩いていた。
目的地は見えていて、それに近づいている感覚はあるのに、
森の主は手招きをやめない。
「ちょっと…!どんだけ歩くのよ…!」
ヒルダはいつものように先陣を切って文句を垂れる。
「これは魔法でも何でもありませんね。
ただ…遠いだけです」
「ちょっとネフィア。何でそんなことがわかるのよ」
「さっきまで感じていた魔力はもう感じません。
目の前に見えているものは確かに近づいていますし、
ただ本当に距離があるだけのようにも思えます」
ネフィアは淡々と現状を語った。
『ネフィアの言う通りだね。
この森は物理的距離で外敵から守っているのかも知れない』
「ここの入り方もよく分からないのに外敵なんて来ないでしょ」
ヒルダは歯に衣着せぬ物言いで言い返した。
『うん。確かにこの入り方が正当なんだったら、
外敵なんて来ないはずなんだ。
その答えはこの道の先で首を長くして待ってると思うよ』
オリバー、ヒルダ、ネフィアはその調子で話しながら歩みを進めていた。
その後ろをジラトとガッツが静かに話しながらついてきている。
「ジラト、さっきからあまり喋らねーけど、大丈夫か?」
ジラトはこの森に来てから何かをずっと考えていた。
「ああ…我か?我なら心配に及ばん」
そしてまたジラトは静かになり、上の空になってしまった。
「おい!ジラト!どうしたんだよ!
なんか気になることでもあんのか?」
ガッツは食い下がらずにジラトに問いかけ続ける。
「すまぬ。あの術式とこの森について考え込んでしまっていた」
「なんかわかったのか?」
「ああ。恐らくここは森ぞ―――」
「いらっしゃい」
ジラトの声を遮るように何者かに歓迎された。
『やっと会えたね。
僕達をここに招いたわけを教えてくれる?
―――妖精さん』
オリバーは目の前にいる壮年の妖精に話しかけた。
纏う魔力も、静かに揺れる羽根も、
この森で積み重ねてきた時間の長さを物語っていた。
「よく…ここまで来たね。
いつぶりだろうか、ティリル」
ティリルに声をかける妖精に対して、
オリバーは仮面を外し、自らの声で話し始めた。
「ティリルは、さっきの"閉じ込める森"に入ったあたりから、
ずっと眠ったままなんだ。
僕と感覚の共有はできてるみたいだけど…」
「そうか…。
こんなところで話すのもなんだ。
ついてきなさい」
妖精に案内されて訪れたのは、
彼ら妖精の体つきには似つかぬほど"大きな小屋"だった。
ここに辿り着くまでにも何人かの妖精とは出会ったが、
人とは誰とも出会っていない。
しかしこの小屋はまるで人が住むために作られたようだった。
「ここ、妖精さんの家じゃないよね?
誰か…"人"が住んでるの?」
これは全員が抱いていた疑問を、
オリバーが代表して聞いたようなものだった。
そして、妖精は静かに答えた。
「もう、暫く誰も帰っていないよ。
いつ帰ってもいいように綺麗にはしてるがね。
さあ、上がりなさい」
オリバー達はその妖精を信用しつつも恐る恐る小屋へ入り、
言われるがまま席に着いた。
そして妖精は話しだした。
「それで…ここに何の用だ?
あの森…無限の森に迷い込んだということは、
願ったのだろう?」
オリバー達は、妖精が言ったことが何一つ分からなかった。
「無限の森?願った?
何のことかさっぱり分からない。
僕達はある場所に向かってたんだけど、
いつの間にか森に迷い込んで閉じ込められてたんだ」
オリバーは誤解を与えないように慎重に説明した。
「ふむ。願ってはいないのか。
ではもう一つ問わせてもらうが、
どうやってこっち側に来た?」
妖精のその問いにオリバーは「これだよ」と言いながら手記を取り出した。
「この術式…!
これが森族である証明となってしまったのか…。
でも、なぜ君が…?」
さっきまで冷静だった妖精は、
フィエルの手記を見て少し狼狽えた。
「悪いけど僕達はこの術式も森のことも、そしてティリルのことも、
本当に何も分からずここにいるんだ。良かったら教えてくれない?」
オリバーのその言葉を聞いた妖精は、
何かを察したように落ち着きを取り戻した。
そして静かに語りだした。
「…ここに辿り着く為の鍵を持つのは森族のみ。
お主らがここに辿り着いたということは…
お主ら…いや、恐らくは高位妖精と契約をしている君だ。
君が、森族という紛れもない証なのだよ。
それもただの森族ではない。高位の…いやもっと上の――」
「ち、ちょっと待ってよ!
いきなり色々言われてもわからないよ!
僕が森族だって!?僕は人族の間に生まれたただの人族だよ!」
妖精はオリバーの声が聞こえていないかのように続ける。
「いや、君は恐らく古代森族だ」
「…古代…森族…」
妖精の言葉に反応したジラトは意味深に小さく呟いていた。
ご愛読ありがとうございます。
これからの投稿の励みになりますので、
宜しければブックマークと評価をお願いします。




