第一層:恐怖
101話目です。
"巨人の悪夢"は静かだった。
既に聴覚が奪われてしまったのかと思うほどに。
今が昼なのか夜なのかわからない。
前なのか後ろなのか、左なのか右なのかもわからない。
自らの足が前に出ていることを目で確認しなければ、
進んでいるかもわからなかった。
それだけ重く厚い霧が、オリバーを包み、纏わりつく。
ヒルダ「オリバー、大丈夫…?」
仲間の声が微かに聞こえる。
オリバー『……う、うん…。
なんとか………ね』
ヒルダはそんなオリバーの手が震えているのを見た。
ヒルダ「オリバー、魔物の気配はしないから、武器に手をかけなくても大丈夫だからね。
それと、もう一度――。ヴァーサキュア」
オリバー『少し…楽になった…。ありがとう』
ジラト「オリバー。少し酷だが…
もう少し早く歩けるか?
ガッツに追いつけぬかも知れん」
オリバー『くっ…!う、うん…!
頑張る……よ…!』
まるで誰かに両足を掴まれているかのように、
前に出てこない脚を必死に動かしてジラトについていく。
オリバー(なんで…みんな平気なんだ…?
平気なのか…?本当に…正気なのか…?)
考えながらも、重い足を一歩一歩踏みしめていく。
オリバー(ダメだ…。考えれば考えるほど…
思考がおかしくなる…。僕だけなのか…?みんなは…?いや、考えすぎか…?)
オリバー『ダメだ…!まただ…!』
ヒルダ「びっくりした!大丈夫!?」
オリバー『うん。黙ってると考えが滑ってしまうんだ。だけど考えれば考えるほど思考がおかしくなってみんながなんで平気なのかほんとうにぼくだけがこわいのかもうみんなはしょうきじゃなくなっているのかわからなくてでもぼくがおかしいかもしれないしでもまかせてぼくがなんとかす』
―――。
ジラト「オリバー!!」
オリバー『はっ…!今、どうなってた…!?』
ヒルダ「…私たち…今までこんなにオリバーに頼り切りだったのね…。
大丈夫よ、オリバー。私とジラトは正気だから。
保てるようにしてるだけだから…安心して」
ヒルダは自分だけでなくオリバーのことも、
気にかけ、言葉で支え、呪いで癒す。
ヒルダも恐怖を感じていないわけではない。
魔力が無尽蔵にあるわけではない。
ヒルダもまた自らの呪いで癒し続けている。
こんな状態で生きて帰ることができるのか。
そんな一抹の不安がヒルダの中にはあった。
オリバー『はぁ…はぁ…。息が…息が…苦しい…できない…』
ジラト「大丈夫だ!オリバー!口をすぼめ、ゆっくりと息をしろ!
決して焦るな!我らは確かに呼吸をし、前に進んでいる!
お前がくれたこのタリスマンがその証拠だ!」
その声がオリバーに届いているのかは誰もわからなかった。
答える余裕すらないのであればまだ救われる。
だが、もしそうでないのならば……。
オリバー『……何か……いる……。
みんな…!気をつけて…!』
ヒルダ「オリバー…!ちょっと…!」
武器を構え、何かと対峙しようとするオリバーを見て、言葉を失った。
何故なら―――
そこには、何もないからだ。
次回、第二層です。
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