第3話 エイデラントの宣言
まわりの年老いた大人たちが見守る中、俺とルーナは一歩一歩歩いていく
そして親父の目の前まできて俺と親父は向かい合った
親父の顔はいつもと同じ、ただ厳格という言葉が似合う顔だった
「これより当主代替わりの儀式を始める」
渋い一言目が発されて親父の顔を見ると少し口角が緩くなってほんの少しだが笑っているようにも見えた
まわりの拍手が終わった後、さらに親父は続けた
「エイデラント・ルーマン。汝をルーマン家8代目当主へ任命する」
そう言いながらヴェルダーは左胸の徽章を取り外し、その徽章をそのままエイデラントの左胸に付けた
「しかと承りました。」
【えっと、次は今後の意気込みだっけ?】
【はっきり言ってそんなのないんだけどなぁ…】
【とりあえず、親父に恥じないよう頑張るとかでいいか…】
「えー、私、エイデラント・ルーマンは先代…、」
そう言い始めた途端、話すのをやめた
「?」
その場の時間は止まったようにも思ったその一瞬、エイデラントの脳内ではさまざまな思考がよぎっていた
【いや、違うだろ。俺は親父とは違って立派になんてできないし、そんなこと言ったらハードル高すぎてきっと大変な思いをする…】
【だったらもっと俺が'楽'できるようにうまく言わなきゃ。】
【そのためには、どうする、?】
【うーん…そうだな…そうだ!】
その間3秒。考えをまとめたエイデラントは1つ咳払いをしてまた話し始めた、しかしその態度は先程までとは違うやる気がない様子ではなかった、中身はどんなものでもそれを実行するための覚悟が彼の姿を輝かせて見せていた
「失礼しました…。続けます。」
「私、エイデラント・ルーマン。私はまだまだ未熟です。そんな私は皆さんの力を借りてからこそようやく一人前になれると考えています。」
「このようなことは本来ならいうべきではないのでしょうが、どうかお願いします!」
「未熟者の私にぜひ力を貸して頂いて、共にこの街を発展させていきましょう!」
【決まった!】
【名付けて!仕事を手伝わせて俺は楽になる!作戦だ!】
すべてを言い終えたエイデラントはまわりを見まわした。
そこに参列していた人々の反応は…
参列者は全員席から立ち上がった
パチパチパチパチ!
そしてエイデラントに待っていたのは拍手喝采だった
「素晴らしい!自らを未熟者だと謙遜して我々の意見も聞けるように共に歩んでいこうとは!」
「当主となっても驕らずに謙虚な姿勢!」
「最後にお姿を見たのはもう何年も前でしたが、お優しい方に育った!」
そんな急に褒められたエイデラントはどこか罪悪感を覚えながら拍手に囲まれた道の間をルーナとゆっくりと歩いていってその部屋から退出した
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扉の外にて
部屋から出て扉がしまった途端にエイデラントは肩から力が抜けて大きくため息を吐いた
「疲れた…」
「素晴らしかったですよ!お疲れ様です!エイデラント様!」
俺は緊張から解放されて壁に寄りかかっているとルーナも褒めながら少し背伸びをして頭を撫でて来た
「やめろよ。俺は子供じゃないぞ?」
「はいはい。よく頑張りました。」
「まぁ、私はあの言葉に隠された意味もしっかりと理解しているのでちょっとなんとも言えない部分もありますが…」
「ここまで来てちゃんと当主になった所はきちんと褒めてあげますよ!」
「なんで途中から上から目線になったんだよ…」
「そんなこといいから!はやく馬車に行かないと皆さん出て来ちゃいますよ?」
「はぁ、ところであの人たちは中で何してるんだ?」
「きっとエイデラント様の印象について話し合っているんでしょう。」
「へー。まぁいいや、行こうか」
「はい!」
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「どうでしたか?私の息子は?」
儀式の部屋の中、ヴェルダーと8人の老人が机を用意してお茶を嗜んでいた
「そうじゃなー、やはりお主の息子というだけはあるわい。」
「うむ、筋肉はまだまだだが、精神は立派なものだ。」
「筋肉馬鹿は黙っちょれ!それよりも…」
「我々の跡継ぎじゃな?」
「ワシたちもそろそろ歳じゃからな、この代替わりはいい機会じゃ」
「次の集まりの時には世代交代というわけじゃな?」
「まぁ全員、孫にやらせるわけじゃが…」
「仕方なかろう?ワシたちの息子娘は全員もう職についておるわけじゃから。」
「まぁワシたちも助言をしながら若者中心でこの街を発展して貰おう…」
「それではまた後日。」
解散を宣言したヴェルダーたちも部屋から出ていき、それぞれの帰路へとついて行った
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ガラガラガラガラ
先に屋敷に戻っているエイデラントとルーナの馬車、エイデラントはずっと窓の外をぼうっと眺めていた
「なぁ…ルーナ?」
「どうしました?」
そう言うと向かいに座っていたルーナも一緒に外を眺め始めた
「漠然と外って嫌だと思ってたけど。」
「案外悪くないかもしれない…」
「どうしたんですか急に?引きこもりのくせして?」
「お前やっぱりクビにしようかな…」
「冗談です!」
そう笑って見せたルーナを横目に外の動き変わる世界をただ眺めていた
幸せそうに歩く家族、友達と走り回っている子供、露店を開いて商売をする者、大道芸で小銭を集める芸者、路地裏に倒れている女性…
【路地に倒れている女性!?】
エイデラントは窓から顔を離して御者との間にある小さな窓を開ける
「悪い!止めてくれ!」
御者は一瞬理解ができなかったが、目の前にいるのは正真正銘の当主、その言葉に従うしかなかった
馬車が止まるとすぐに扉を自ら開けて飛び出して先ほどの路地裏へと走っていった
「ちょっと!?エイデラント様!?」
「もう!待ってください!」
ルーナは彼のその姿をみてただ事ではないと察知して御者に待機を命令してエイデラントの後を追いかけた