表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

【一章/一話】 始めての回生

 リビングとダイニングが繋がって、一室になった部屋。初めて入る、女の子の部屋。

 願わくば、両足で、しっかり床を踏みしめたかった。

 僕が今居るのなんて、ダイニングテーブルの上だぞ。行儀が悪い、と僕でも思う。しかし残念ながら、やむを得ない事情というのも、やはり在るものだ。

 例えば――首以外何も残ってないから、とか。

 そんな首だけの僕は今、部屋の主の女の子と、顔を見つめ合っている。僕はテーブルの上で。彼女は椅子に座って。それでも、目線は同じ。あんまり長く見つめ合うと、恋に落ちちまう、なんて言うけれど、それは生首でも、適用範囲内の現象なのだろうか。


 まだ制服姿の彼女は、何処か無邪気な雰囲気で、朱色の瞳が綺麗で、鼻筋が通っていて、微笑む口元が可愛らしくて、茶髪のショートカットが、良く似合っている。

 可憐で、幼気で、麗しく――怖い程、心を惹かれる。


「ねぇねぇ、君って、本当に生きてるのかな? 目に映るものを信じるなら、十中八九、間違いなく君は死んでいないのだけれど、でもやっぱり、生首でも死んでいない、なんてのは馬鹿げてると思うし、もしかすると、私って、人間の頭部を殺人現場から持ち帰って、それをテーブルの上でお皿に盛り付ける、頭のおかしい娘なんじゃないか、とか思っちゃうわけだ」


 え、僕の下って、お皿だったの? と、やはり口には出来ない。

 彼女は反応のない僕に溜息を吐いてから、そっと、僕を撫でるように、僕の頭上に手を置いた。


「【ベール】」


 緑がかった光が、彼女の手から漏れ出す。

 これは、魔法という物なのだろうか? きっと、恐らく、信じ難くも、ここは――〝異世界〟なんだろうから、やはり、そういう事も、ある、んだろう。

 

「……あれ、ダメか」


 何も起きぬまま、彼女は僕から腕を除けてしまった。

 魔法は、失敗したと思われる。何の魔法かも、分からないが。

 少し頭を悩ませてから、再度決意したように、彼女は僕の頭部に手を置き、


「【べーディウ】」


 今度彼女がそう唱えた瞬間、僕の身体から――痛みが消えた。そして、視界が高くなった。

 僕は――椅子の上に屈んでいた。

 さっきまで同じ目線だった彼女は、随分下に居る。そして、その彼女の目の前には、僕の僕が、存在している。

 全裸だった。


「あららららら、顔の得点は平均だったけど、こっちも総合したら、ちょっと平均以下かな?」


「恐らく君は今、凄く失礼な事を言っているんだと思う。でも、それを差し引いても、僕の感謝は揺るがない。 本当に――ありがとう。この恩は、何らかの形で、絶対に返そう」


「じゃあまず、服でも着てくれる?」


「……あ、はい」


 思いの外彼女は冷静で、恥ずかしくなった。

 彼女が部屋の一室から着替えを持って来てくれたので、その紺色一色の寝間着に着替えて、僕は彼女と共に、向かい合って座り直した。


「単刀直入に聞くけど、なんで君は生きてるの? いや、生きてはいなかったから、なんで死んでいなかったの、と聞くべきなのかな」


「……悪いが、それは僕にも分からない。 それと、君が僕を生き返らせたのって――魔法、だよね?」


「いやいや、魔法で人が――生き返る訳ないじゃない」


 魔法の、限界という意味だろうか。

 それでも僕が生きているのはつまり、


「僕は、死んでいないから、生き返れたのか?」


「だからその、生き返った、ていう言い回し自体が、相応しくないんだって。 死に踏み込まず、それで生に返るって――どういう状況だよ」


 それは、そうだ。


「君は生き返っていないし、どころか治療もされてない。治療の魔法は、そもそも発動もしなかったからね。私が行使したのは――修理の魔法。治すのではなく、直した。 君はどちらかというなら、人より、よっぽど――物に近いみたいだ」


「一回目の、べーる? ってのが、回復の魔法だったのか」


「え、それも、知らなかったの?」


「ああ、知らなかったよ」


「それすらも?」


「それすらも。というか、何もかも」


 彼女は、首を傾げた。


「……まぁいいや。 それじゃあ、私は一体、君から、どんな情報なら、得られるのかな?」


「言ったろう? 何もかも、分からないって。だから、何も教えれないよ。悪いが、本当に、何も」


 今は、全て伏せる事にした。

 それに、嘘ではない。僕はこの世界に生きて、まだ数時間だから。


「何も? 何一つ? 身分すら? だとしたら、君は今その歳に至るまで、何処に居て、何を見て、何をしてきたのかな? 何も成し遂げない人間は居るけど、何もしていない人間なんて、居ないと思うけれど」


「記憶喪失、だとでも思ってくれ。 あぁ、でも、名前――とかなら」


「ふーん、じゃあそれ教えてよ」


「西月一朗太だ」


「……本当にそれ、名前なの?」


「失礼だな、名前だよ」


 でも、ここじゃあ、名前の文化も違うかも知れない。

 おかしいのは、僕の名前なのかも、知れない。


「逆に、君の名前は? 恩人の名前ぐらい、知っておきたい」


「――シフ・ハスカー・フューズ。 シフで良いよ!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ