第8話 現場
顔を真っ赤にした負け犬は俺の顔を狙って拳を放ってきたが、大ぶりすぎて隙だらけだ。やるのは簡単だが、依頼主を知るためにも痛めつける必要があるから、少し面倒だな。
「危ないっす!」
「ぐはっ」
「このポンコツが!」
サイカが懐から出した暗器で殺しやがった。せっかく依頼主を聞き出すために拷問方法をいろいろ考えていたのに台無しじゃねえか。かなりむかついたから今までで一番強く頭をグリグリしてやった。
「な、なんで拳を構えながら近づくんすか! 私は助けたんすよ……痛ったァァァァァい!! 本当に潰れちゃいます。あ、なんか"ゴリ"って鳴っちゃいけない音が鳴ったすよ!!」
サイカの叫び声はスラム街に響き渡った。近くに居た俺の耳は魔力で守っていなかったら、確実に潰れていただろう。いくらスラム街と言ってもあれほど声を出したら衛兵がやってきちまう。そうしたら確実に証拠が持っていかれちまう。
「おい、頭を押さえていないでお前も探せ」
「これは貴方のせいっすよ」
「知らん。仕事放棄で雇わねえぞ」
「やる気が出てきたっすよ!!」
こいつはどんだけニートが嫌なんだ。確かにニートは俺も嫌いだが、こいつほど毛嫌いはしていないぞ。
「……やる気出てるところ悪いが、何を探すのか分かってんのか?」
「もちろん!」
すごく自身がありそうなサイカに嫌な予感がするが、さすがにここで察せないほどポンコツではないと信じたい。
「……言ってみろ」
「金目のものっすよね!」
「俺はそこまでクズじゃね。それに金には困ってねえよ」
やっぱり雇うって言ったのは早とちりだったか? 今からでも解雇してやりたいが、不当解雇になっちまうしな……それに裏仕事についてはかなり優秀なのは間違いないからポンコツなところには目を瞑るしかないか。
「じゃあなんすか? 金じゃなかったら何がこんなところにあるんすか」
「はあ、お前は現場にしか向いていないことはよーく分かった。俺らがここに来た理由を思い出してみろ」
「うーんと確か……地上げ屋の目的っすか?」
「はあ、地上げ屋の目的は土地をぶんどる以外にないだろ。俺の目的は地上げ屋に依頼した人間を探すことだって言ったはずだぞ」
やっぱりこいつを雇うって言ったのは早とちりだったな。現場の人間だと目を瞑るにしても流石にポンコツ過ぎるぞ。
「でもそれらしき物はなかったっすよ」
「……もう探したのか? お前はずっと俺の目の前にいたはずだが?」
「そこは企業秘密っすよ。まあ、私を最期まで雇ってくれるのなら教えてあげてもいいっすけど」
イラッと来る言い方だな。
まあ雇うと決めた以上、俺の方から解雇を言い渡すことはないから、実質最期まで雇うことにはなるだろうが、こいつを調子づかせるのは癪だ。無視してここを離れるか。
「あっ! 無視しないでほしいっす!! 私が悪かったっすから!!!」
こいつ足に縋りついてきやがった。普通にあしらうのが一番だったのか。こいつは面倒くさい性格をしてやがる。