第53話 バイオレンスヒロインは少し離れたくらいでは変わらない
昨日はぐっすり眠れたが、気分は晴れていない。
貴族からの依頼というのもあるが、依頼が終わった後に待っているルーダからの命令が何されるのか分からなくて少し怖い気持ちがある。まああいつのことだから、そこまで酷いことはされないだろう……たぶんな。
ギルドに着いたが、なんか久しぶりな気がするな。
「久しぶりだな。みんなお前待ちだったぞ」
「ガルム、俺は勝手に依頼を受けさせられたんだ。少し待たせるくらいが丁度いいだろ」
「別に《《俺は》》文句は言わねえよ」
「ああ、あいつか」
ルナのことだな。
あいつが勝手に決めて、こっちが少し遅れたくらいで怒るってのは理不尽な気がするが、あいつは元からそんな性格だし、今更文句を言ったところであいつの態度が変わるわけでもないから、諦めるしかねえな。
「会議室に待ってるから行ってこい」
「ガルムは来ないのか?」
「……俺は後から行くさ」
なんとなく嫌な予感が頭をよぎるが、これ以上遅れるわけにもいかないからな……開けるか。
「遅い」
「あべし」
扉を開けた俺を待っていたのは、誰のかは見なくとも分かる拳だった。頬を捉えた拳は俺の身体を浮かび上がらせ、壁まで吹き飛ばされた。慣れたものだな。殴られるのを予測できていたため、身体を極限まで背後に逸らすことで、パンチの衝撃を最低限まで下げ、壁にぶつかった際も受け身を取ることで頭をぶつけるのを避けられた。
「遅い」
「勝手に依頼を受けさせられたんだ。この程度の遅れは見逃してくれてもいいだろ」
「遅れたことに変わりはないだろ」
「はいはい、そうだな。じゃあ依頼内容を聞かせてくれや」
ここで会話の内容を変えることで、バカなこいつなら遅れたことを有耶無耶にできるはずだ。
「早く座れ」
「ほら座ったから教えてくれ」
ここは素直に座るのが重要だな。できるだけ考える隙を渡さないことが、バカなこいつを丸め込める秘訣だ。
「ではここに集まったお前たちへの依頼を言う」
改めて周りを見渡してみたが、周りに居るのはむさ苦しい男ばかりだ。それも顔に大きな傷があったり、巨漢だったりとむさ苦しいの頂点に立つような者ばかりだ。
「東の森に魔族四天王の一人である暴食の女王蜘蛛が住み着いている。そして眷族である蜘蛛系の魔物が大量発生しているとの情報を得ている」
「いや、それは依頼じゃなくて、ただの情報だろ」
俺はルナの言葉を遮った訳ではない。ただルナは完全に言い切ったような顔をして口を噤んでいたから指摘しただけだ。それなのに殴られるのはやっぱり理不尽だよな。
「お前たちには眷族である魔物の討伐を依頼する」
ルナの言葉を聞いて、この中では異質な恰好の男が手を上げていた。
「では四天王はどうするのか?」
「私と四天王討伐経験のあるガルム、そして勇者のマサヨシが担当する」
「なっ!? 聞いてないぞ!!」
「何も聞いていないだろ」と言われたらそれまでなんだが、流石に四天王を相手取るには準備も覚悟も何も足りていない。
「何も言っていないから、当たり前だろ」
ぐうの音もでないことを言われてしまった。いや、そもそも俺自身は依頼を受けていないから、帰ってもいいんじゃないか?
「では、これより四天王暴食の女王蜘蛛討伐作戦を開始する」
「――っ!?」
今からだと!? 他の奴らの顔を見るに聞いていなかったのは俺だけかよ。驚きすぎて声すら出なかったぞ。
「ここに来た以上は参加してもらうぞ」
「ガルム――」
しれっと部屋に居たガルムに肩を叩かれたが、呆れすぎて何も言うことができなかった。
結局、ルナとガルムの間に挟まれながら、森へと足を進められた。周りにいる奴らは魔物との戦いを待ちきれないのか、いい顔をしている。それに対して俺は顔が死んでいる。
「そろそろ離れろよ。流石にここまで来ておいて逃げはしねえよ」
「いや、お前はここまで来ても逃げる男だろ」
「逃げねえって」
まあ信頼はされてないから、仕方ないことか。
そして本日初の接敵を迎えた。
次回より戦闘が始まります
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