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勇者は正義感が強いという固定観念はやめてくれ  作者: Umi
第4章 蜘蛛たちのスタンピード編
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第52話 いくつになってもババ抜きは白熱する

「ババ抜きをやるってことになったが、トランプ持っている奴は居るか?」


「私は持ってないっすよ」


 発案者であるサイカの方に目をやる。発案者であり、いつも暇そうにしているサイカなら持っているだろうと思っての行動だが、サイカも持ってないらしく、俺と同じような速度で首をルーダの方にやっていた。


「もちろん私もそのような物は持ち合わせていません」


「だろうな。カエデは?」


「私も持ってないよ」


 サイカが持っていなくて、ルーダやカエデが持っているわけないと分かってはいたが、こういう時は一番意外な奴が持っているってのが物語の相場なんだがな……。


「ここは物語じゃなくて現実っすから、仕方ないっすよ」


「いや、あれだけメタい発言をしておいて『物語じゃない』は無理があるだろ」


「コメディーってのは、そういったメタと現実を都合よく行き来するものなんっすよ」


「都合がいい話だな」


「そんなものっす」


「まあいいか。トランプを買いに行くけど、誰か付いてくるか?」


 ウチの近くでトランプを売っていそうなのは……おばちゃんの店が一番売っていそうだな。


「マサさん、作者はトランプ編はこの話で収めたいみたいなので、私にトランプを渡してくれたっす」


「もう何も言わん」


 作者の都合でトランプを手に入れることができたから、ババ抜きのため、俺たちは円を作るように座った。


「ご主人様ずるいですよ」


「何がだよ」


 ルーダがずるいって言ってきたが、今の俺の行動にずるいところなんてあったか? トランプをするために座っただけだぞ。


「サイカさんの隣に座っただけで勝率がぐんと上がりますから、いち早くサイカさんの隣に座ったご主人様はずるいですよ」


「なんか酷いこと言われている気がするっす」


「気がするじゃなくて、言われてるぞ」


「なっ! ルーダさん酷いっすよ」


「事実を述べたまでです」


「それはそうだな」


「そうだね」


「みんな酷いっすよー!!」


 考えてみればこのポンコツから引くことができれば、勝てるとまでは言えないが、負ける可能性はほぼゼロになるな……いや、最終的に一対一になるわけだから、ビリはサイカで確定しているみたいなものか。


「マサさんが一番酷いことを思っている気がするっす」


「気のせいだろ」


「……早くやらないのですか? このくだらない話し合いをしている間も時間は進んでいますよ」


「それもそうだな」


 ルーダに諭されてしまった。確かにここまで来てトランプをやらずに寝に入るのは勿体ない気がするな。


「……じゃあ始めるっすよ」


 作者からトランプを貰ったのがサイカだから仕方のないことだが、配る役を率先してやりに行くのは少し怪しく見えるな。


「こういった雑用は奴隷の仕事ですので、貸してください」


「大丈夫っすよ。私は奴隷云々は元から気にしてないっすから」


「そういう問題では……」


 ルーダも気づいてはいるんだろうが、直接言うと自分も怪しくなるから言えなくなっているんだろうな。しかしこのままでは全く進まなくなってしまうな……ここは怪しくなってでも俺が動くか。


「こんなことで揉めるのなら、俺が配るぞ」


「ご主人様にやらせるわけには……」


「そのご主人様からの命令だ」


「――はい、分かりました」


 これでルーダとカエデの動きを封じることができた。問題はサイカだな。一応雇用主と被雇用者という立場ではあるが、強制的に命令できる関係ではないからな……。


「そこまで言うのなら譲ってやるっすよ」


「これは借りではないぞ?」


「分かっているっすよ。ただ早くババ抜きをやりたいだけっすから」


 俺の手に渡ってきたトランプを細かく確認してみて、細工されているようには見えなかったから、十分にシャッフルしてから配り始めた。

 俺たちの並びは、俺はサイカから引き、サイカはカエデから引く、カエデはルーダから引き、ルーダは俺から引く。結局俺がサイカから引くことになったが、二人ともいろいろ考えた結果、あまり関係ないと分かったみたいで、文句は出てこなかった。


「配り終わったな……俺は残り六枚だな」


「私は5枚っす」


「私も5枚ですね」


「私も5枚だったよ」


 俺以外は全員5枚か……まあ最初の枚数なんて関係ないだろ。


 数分前までそう思っていたのだが、現実が俺に対して初動が大事だということを分からせてきた。


 全員が順調に手札を減らしていったが、最後の二枚がなかなか捨てられず、最後の二人にまで残ってしまった。

 予想通りルーダが一着、少し甘く見ていたカエデが二着で抜けていき、俺と予想通りのサイカが残った。


「私は負けないっすよ」


「お前に負けるわけないだろ」


 こう言っておいてなんだが、俺が想像していた顔に出るポンコツサイカという人間は存在せず、俺の目の前で二枚の手札をこちらに引かせようとしているのは、完璧なポーカーフェイスで表情を隠した元NINNJAのサイカだ。

 いつものポンコツはどこに雲隠れしているんだ!!?


「失礼なことを考えているのは見逃してやるっすから、大人しくババを引くっす」


 ババ抜きは単純な二択に思えるが、読み合いによって勝ち負けが決まる。つまり言葉で揺さぶって、相手の表情の変化を見極めるのが勝ちに繋がる。


「どっちにババはある?」


「うーん……マサさんから見て右側っすね」


 俺から見て右側か。わざわざ「俺から見て」という言葉を付けることで、曖昧であるはずの左右を確定させたのか。つまりババの位置は右側ってのを俺に印象付けたかったのか。今のあいつを見るに、心理戦に長けているように見える。

 これらのことから導き出される答えは、俺から見て左側にババがあるはずだ!


「残念でしたっす!!」


「チッ」


 俺の読みが外れたか。

 俺が深く考えすぎたのか、あいつが俺が読んでくることを見越して逆に置いたのか……いや、そんなことはどうでも良い。ここでババを引かせないと俺の負けになっちまう。


「私はハートのエースを引いてやるっす」


「――引けるものなら引いてみろ」


 なぜハートだと分かったんだ? 確かに捨てられたマークを覚えていれば分かるはずだが、エースを捨てたのは俺で、しかもだいぶ初期のころに捨てたはずだ。捨てられたマークと数字を全部覚えていないと不可能……もしかして全部覚えているのか!?


「雑念がすごいっすよ!」


 俺の手札からサイカの手によって一枚のトランプが抜かれた。

 俺の手札に残ったのは、醜悪な魔物の姿をしたカード、つまりジョーカーだ。

 読み合いをする前に負けたなんて、なんか消化不良だ。


「私のあがりっす。じゃあルーダさんはマサさんに何を命令するっすか?」


「――っいろいろ考えていましたが、思いつきませんでしたので、辺境伯の依頼を達成してから伝えます」


 ルーダが顔を赤くしているが、そんな恥ずかしくなるような命令を考えていたのかよ。捕まらない命令にするように頼んでおかなければいけなくなりそうだ。


「相変わらずっすね」


「ご主人様鈍感」


「二人してそれはどういう意味だ?」


「なんでもないっすよ」


「私も同じです」


 サイカとカエデは、俺に言葉の意味を伝えないで部屋に帰って行きやがった。モヤモヤして眠れなくなりそうだ。


 ベッドは俺の身体を優しく包み込み、深い眠りへと誘った。



命令はこの章が終わるまで持ち越しになりました。

顔が赤くなるような命令ってなんでしょうね? 私には分からないですけど、きっと恥ずかしいことなんでしょう(すっとぼけ)


次回はルーメイル辺境伯の依頼が明らかになります。


皆様に☆やブックマークを押していただけると、ルーダの命令が過激になるのかもしれません。

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