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勇者は正義感が強いという固定観念はやめてくれ  作者: Umi
第4章 蜘蛛たちのスタンピード編
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第50話 元カノとビジネス相手として出会うと何となく気まずい

「何しに来たんだ?」


「ルナが帰ってきたっす!!」


「そんなわけないだろ」


 あれだけの想いがあるのに、俺が居るウチに帰ってくるわけない。

 そもそもウチに来た理由は勇者である俺に師事したいとのことだったが、今でも俺が勝てなかったペシムス商会の男を追い払っているわけで、根本的にウチに居る理由はないはずだ。


「帰れば分かるっす!!」


「……ここに関係者が居るんだから聞けばよくねえか?」


 ここにはルナの父親であるルーメイル辺境伯に仕える騎士のクロムが居る。こいつなら詳しい事情を知っているはずだ。


「しししし知ってるに決まってるだろ!!」


 ……知らないんだな。分かりやすく動揺していて見ているこっちがドン引きだよ――って一昨日の話でも思った気がする。


「マサさん、メタいっす」


「良いんだよ。ここは話のメインじゃないんだから、メタいくらいが丁度いいんだよ」


「やっぱりメタいっす!! でも主人公が良いって言うのなら、良いと思うっすよ」


「お前もメタいぞ」


「あっ」


 こんなしょうもない話をしている間もクロムは動揺をどうにか抑えようとしている。お前がルナについて詳しく知らないのに俺を煽ってきたのはもう分かったから、お前はできるだけひっそりとフェイドアウトしてくれ。


 そしてサイカは人にメタい、メタいって言いたいのなら、自分はメタい発言しないように気を付けてくれ。ポンコツに見えるぞ。

 まあサイカはポンコツだけどな。


「私はポンコツっす」


「はいはい――って認めただと」


 自分のことを高く見積もって、ポンコツであることを否定してきたサイカがポンコツであることを認めただと!?


「私はポンコツでいいっすから、家に帰ってきてルナに会って欲しいっす」


 こいつ俺をルナに会わせるために自分がポンコツであることを認めたのか……ここまでされたら帰らざるを得ないじゃないか。


「……はあ、帰って会えばいいんだろ」


 俺は帰ってルナに会うことにした。

 あいつが何を考えてウチに帰って来たのか分からないが、俺の考えが変わることはない。俺の周りから人が居なくなろうと、俺の命が(つい)えようと俺の考えは変わらない。

 俺は確固たる意思を持ちながら、ルナの待つ自宅へと足を進めた。


 ちなみにクロムはフェイドアウトせず、動揺を抑えようとポテスト商館跡地前で一人格闘していた。



 ◇◇◇


 帰宅した俺を待っていたのは、ソファにふんぞり返るルナと彼女に飲み物を提供しているルーダの姿だ。


「お前はいつからこの家の主人になったんだ」


「やっと戻って来たのか」


「無視かよ!! まあいい。あれだけのことを言っておいて、どうして帰って来たんだ?」


「私は帰ってきたわけではない」


 その言葉を聞いて、首は無意識のうちにサイカの方へ向いていた。

 サイカは詳しいことも聞かずに俺のところまで来たんだろうな。こっちに目をやらずに口笛を吹いてやがる。


 それにしても帰ってきたわけじゃないのにウチへ来たのか……いやな予感がするな。


「じゃあ何しに来たんだよ」


「勇者であるお前にルーメイル家からの依頼だ」


「依頼だと? 俺はそんなことを受け付けてねえよ」


「私と戦場に立てないというのか?」


「戦場かよ。もっと嫌になったわ」


 貴族の都合で戦場に駆り出されるなんて、断固拒否させてもらうわ。貴族の依頼なんて報酬と危険度が釣り合ってねえのがほとんどだからな。

 そもそもルナが戦場に立つのなら、俺たちなんていらないだろ。


「付いて来てもらわないと困るな」


「お前が困ったところで関係ないな。今の俺たちは赤の他人なんだからよ――あべっし」


 ルナに対して赤の他人って言った瞬間に殴られた。事実を言って何が悪いんだよ。

 しかも今までの暴力はほぼ身内だから許されたものの……いや、普通にDV(家庭内暴力)か。


いばなぐっでぐるのは(今殴ってくるのは)、|ふづうのぼうぎょくだどおぼいばず《普通の暴力だと思います》」


「そんなことはどうでも良いから、依頼を受けろ」


「だから暴力は――」


「依頼を受けろ」


「だから――」


「受けろ」


 こいつ、こっちが受けない限りこれを続けるつもりだな。今までは身内みたいなものだったから、こっちが先に折れてやっていたが、今は赤の他人だ。こっちが先に折れてやる謂れはない!


「受けろ」


「いや、まだ何も言ってないぞ!!」


「そうか受けてくれるか」


「いやだから――」


「明日の朝、ギルドで待っているぞ」


 ルナは俺の言葉を右から左に聞き流しながら、勝手に俺が認めたことにして帰りやがった。


「マサさん、どうするっすか? ルナはあれでも貴族令嬢っす」


「その貴族令嬢を“あれでも”呼ばわりは良くないと思うぞ」


「ご主人様の言う通りです。あれはああ見えても偉いですからね」


「いや、あれだの、ああ見えてだの、お前が一番酷い言い草だからな!」


 初期に比べるとルーダのボケキャラ化が顕著だな。


「作品自体がコメディチックに移ったっすからね」


「お前は初期に比べるとメタい発言が増えたよな」


「私はメタ発言じゃないっす! メタ発言に対するツッコミが増えただけっす。つまりは私の周りのメタ発言が増えたわけっす!!」


 サイカは自信満々にこっちを指さしている。

 

「あー、なんだ、ルナの依頼をどうするか決めようぜ」


「あからさまに誤魔化したっすね!!」


 サイカがギャーギャー喚いているが無視だ、無視。


「私はご主人様が決めたことについて行きます」


「私もだよ」


「ちなみに私もマサさんが決めたことについて行くっす」


「そうなのか……一応聞いておくが、それは信頼があるからだよな?」


 おい! 目を逸らすんじゃない。


「本音は?」


「……もしも選択を失敗した場合はマサさんに責任を押し付けられるかな~、と思ったっす」


 だと思ったよ、ちくしょー!!



ルナはマサヨシに対する感情が完全に冷めたわけではなさそうですね。


次回、勇者マサヨシ一行はルーメイル辺境伯からの依頼に参加するのだろうか!?


皆様に☆やブックマークを押していただけると、ルナからの理不尽な暴力が減りますので何卒宜しくお願い致します。

(彼女にとって全ての暴力に意味があるので理不尽な暴力など存在しません)


マサヨシ「ちくしょー!!」

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