第47話 逆張りネキ
俺は男の連撃に耐え続けるしかない。
時間が経つにつれて、その攻撃の激しさは増していき、比例するように全身からの出血が増えている。
少し血を流しすぎたな。相手の魔法を理解するために頭を使おうとするが、身体を動かすのが精一杯だ。
「お前では俺に勝てない。そもそも関係のないお前がどうしてあの土地に拘る。借金を作るような店は潰した方が世のためだぞ」
「……借金をするってのはクズの象徴みたいな風潮になっているが、銀行の融資だって、大きな買い物をする際のローンだって、借りる先が違うだけで、言ってしまえば借金だ。借金をしてクズと呼ばれるのは返す見通しがないような奴だけのはずだ」
「借金をする奴の言い訳にしか聞こえないな」
「言い訳で結構!」
ここまで時間を稼いではみたものの、特に対策を思いついたわけではない。ただ相手の攻撃が止んだこの瞬間に攻めに転じなければ、一生守りに徹することになったであろうから、俺にはこの瞬間しかなかったはずだ。
「無駄なことを」
俺は右手に握りしめた剣で男の首を狙ったが、いとも容易く受け止められた。膂力においては俺の方に分があるみたいで、競り合った刃は男の首まで押し込み、首を刎ね飛ばした……はずだった
「言ったはずだ。お前は死ぬことになるとな」
「うぐっ」
首を刎ねたはずの男の刃が、俺の胸から腹にかけてを縦に切り裂いた。幸い内臓までは達してはいないだろうが、出血多量で動くことすらままならなくなってしまった。
そんな身動き取れない俺に無慈悲な刃が迫っている。俺の人生ここで終わりか……《《あいつ》》に文句の一つでも言いたかったな。
手を広げたリンが俺を守るように立っていた。
「ここまでやれば邪魔にならないアル。だから見逃してもいいはずアル」
「……味方にならないのならば消すというのが我らの方針だ。お前も逆らうのか?」
「え、あっ」
「俺のことは気にするな」
血を吐きそうになるのを押し込めながら、リンに本音を伝えた。せっかくペシムス商会の手を借りてまで成り上がったのに、俺みたいなクズを救うため、命ごと立場を捨ててほしいとは思っていない。
「……よし」
リンは覚悟を決めた顔をしている。
それでいいんだ。自分の命を一番に考えるのが賢い選択だ。
「やっぱり殺させないアル」
「今になって、世話になった者を殺すことに怖気づいたのか。いいだろう、お前から死んでもらう」
「う……リン……やめろ」
リンを守るために身体を起こそうとするが、言うことを聞いてくれない。それどころか気を抜いてしまえば意識が飛んでしまいそうだ。
「死ね」
こういった時、物語であれば誰かしらの助けが来るんだろうが、現実と言うのは、そううまくいってくれはしない。
俺の目の前で飛び散る鮮血、その生暖かい液体は俺の飛びそうな意識を引き戻す。ただ、意識が戻っても身体は動かず、倒れ行くリンの身体を支えることもできない。
「ご……めんな……さい」
「次はお前だ」
その言葉が俺の聞いた《《最後の言葉》》であった。
◇◇◇
「リン!!」
なぜだか分からないが、手を伸ばしていた。そんな俺の事をルーダは目を見開いてみている。
「はっ! ご主人様!!」
意識が戻った俺を待っていたのは、ルーダによる熱い抱擁だった。抱き着かれた瞬間は柔らかいという気持ちが浮かんだが、追うように全身に激痛が走った。
その激痛はルーダが満足するまで続き、気絶することも許されず、永遠とも思える時を過ごした。
「みんなに伝えてきますね」
ハグするのなら気を付けろって伝えたかったのに行っちまった。それにしても何があったんだ? 家を出てからの記憶が一切ない。
「マサさん!!」
「サイカ、気をつけ――ああああ!!」
やっぱりサイカにも抱き着かれて、二度目の激痛が走る。だがまだマシと言える。この家には圧倒的武闘派ヒロインが居るからな。
「起きたのか。ふむ、みんな抱きしめているのか」
「いや、抱きしめなくてもいいからな」
「むっ、私を拒否したな」
こいつには逆効果だ! 距離を取ろうとすれば近づいてきて、距離を近づけようとしたら離れてくる。こいつはそんな女だ!!
そしてその時がやってきた。
「あぁぁぁぁ!!!!!」
ハグされたと同時にこれまで経験したことのないような激痛が全身に走った。痛みは一瞬にして俺の意識を刈り取り、目覚めたばかりの俺を強制的に二度寝へと追い込んだ。
後日聞いたことだが、俺の絶叫は近隣の住宅内まで届いていたらしい。
マサヨシがどうやって命の危機を脱したのかは次回明らかになります。
次回明らかになること
・リンの生死
・ペシムス商会の男の行方
・マサヨシが危機を脱した方法
次回が【解放奴隷編】最終回となります。
第4章からは2日に1回の投稿になりますのでご了承ください。
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