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第45話 あまりにも実力が離れていると、その差すら理解できなくなる

「全然眠れなかった」


 窓から日差しが差し込む。

 結局ほぼ眠ることができなかった。眠りに入ると必ず誰かが邪魔をしてきた。ルーダが腕をキメてきたり、サイカが首を絞めてきたり、ルナが爆音でいびきをかいたり、カエデが可愛らしかったりと深い眠りにはつけなかった。


「ふわぁぁー、あれ? なんでみんな居るんすか。それに身体が痛いんすけど、何か知っているっすか?」


「あー、変な恰好で寝ちゃったんだろ」


 ルナのダイブのせいなんだろうが、これを伝えて関係が悪化するのは面倒くさいし、適当に誤魔化しておけば納得するだろ。


「そうかもしれないっす」


 ほらな。


「なんでマサさんと同衾しているっすか……はっ、私の貞操が――」


「なわけないだろ!! ここに全員いるのが、やっていない確かな証拠だろ」


「まさかの5ピー……」


「いや、ピー音じゃあ隠せてねえよ! それどころか余計に卑猥にするだけだ!!」


 カエデも居るんだから5ピーなんてやるわけないだろ。それにルナに至っては貴族令嬢だし、手を出したら殺されるに決まっている。


「殺されないぞ。責任を取らされるだけだ。ぐううー」


 ルナは言葉だけを残してまた眠りについた。

 どういう意味だ!? 寝ながら俺の心を読んで答えたのか!? それともたまたま夢でも見ていたのか!? いや、どちらにしても責任ってどういう意味だ!? 殺されるではなく、自害しろってことか!?


「相変わらず鈍感っすね」


「どういう意味だ?」


「もういいっすよ。早く準備しないと約束の時間に間に合わなくなるっすよ」


 サイカの言葉の意味が気になったが、確かに約束の時間まで余裕があるわけではないため、部屋をあとにした。

 俺が居なくなった部屋からは、サイカしか起きていないはずなのに姦しい声が聞こえてきた。サイカは独り言が大きいのか。


 ある程度身支度を終えた俺は、リビングにて少しゆっくりしていた。コーヒーを飲み、これから起きるであろう襲撃に対する対策を考えていた。


「襲撃されると決まった訳ではないっすから、深く考えすぎない方がいいっすよ」


「もしもが起きた時に警戒していないと、俺でも負ける可能性があるからな」


 そう言って残ったコーヒーを流し込む。飲み終えたコップをシンクに置いて、部屋をあとにする。


「……死なないでくださいっす」


「ご主人様の帰りをお待ちしております」


「起きて待ってるよ」


「ぐがああ」


 感動的な見送りの場面でもソファで爆音のいびきをかきながら寝ているルナ。いや、別に感動的でも何でもない可能性もあるけど、流石に一人だけ寝ているのは空気が読めていないんじゃないか? 確かにお前の立場は空気を読む必要がないかもしれないけど、ここの主は俺なんだよ? そんな俺が死地かもしれない場所に向かうのに寝て、いびきが見送りの言葉っていうのは少し薄情じゃないか?


「はぁ、きっとルナはご主人様のことを信頼しているのです」


「ぐががが」


「まるで否定するかの如くいびきが大きくなったんだけど!?」


「これは否定ではなく、肯定のいびきです」


「なんでそんなこと分かるんだよ!! てか、否定のいびきって何!? 肯定のいびきって何!?」


「……ご主人様はつべこべ言わずに行けば良いんです!!」


 俺は玄関から蹴り飛ばされて、家から追い出された。

 この家の主なのにこんな仕打ちは酷いんじゃねえか?


 そんな悲しみを背負いつつ、ポテスト商会へと足を進めた。

 気のせいなのかもしれないが、自宅からポテスト商会までの道には誰の気配も感じられない。住民だけでなく、ペシムス商会の刺客の気配すら感じられない。


「異様な雰囲気だな。もし人払いしているのなら、してる奴の気配が感じられるはずだ」


「お前がそれまでの人間ということだ」


 なっ!? 全く気配を感じられなかった!! 背後から聞こえてきた声に驚きながら飛び退いた。こいつに殺意がなかったから飛び退くことができたが、もし殺す気で来ていたのなら、俺はやられていたな。


「……ペシムス商会の刺客か?」


「いや、刺客ではない。お前を連れて行く案内人だ」


「案内人だと? お前みたいな猛者を案内人にする必要が何処にある」


「……お前の質問に答える義務はないが、答えてやる。答えは簡単だ。俺は、お前が思っているほど、ペシムス商会において猛者ではないということだ」


 こいつが実力において上位ではないとすれば、甘く見すぎていたのかもな。ただ、ペシムス商会の強さを過剰に見せるためのブラフの可能性もあるな。


「お前がどう考えていようとどうでも良いが、付いて来てもらうぞ」


「拒否したら?」


「無理矢理にでも連れて行く」


「……案内しろ」


 全力を出せば勝てるだろうが、ここは街中だ。俺たちがぶつかれば街の壊滅は避けられないだろうからな。


「利口な判断だ」


 刺客のあとを追いながら、街中を進んでいく。その道は変わらず人気がなかった。


「安心しろ。魔法で隔離しているだけだ」


 空間を隔離する魔法だと!? その魔法は魔族の特権である闇属性じゃないのか!? ペシムス商会はトップだけではなく、中まで汚染されているのかよ!


「……勘違いするな。俺は根っからの人間だ」


「――」


 ポーカーフェイスを心掛けたが、顔に出てしまっているだろうな。それだけ驚く事実だ。

 光属性の魔法が人間の専売特許であるように、闇属性の魔法は魔族の専売特許だ。人間と名乗るこいつが居ることで、これまでの根底を覆すことになる。


「無駄話は終わりだ」


 刺客に連れられてポテスト商館の前までやってきた。



刺客は正真正銘の人間です

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