第43話 睡眠欲に勝る欲は○○である
日が沈み、暗くなった部屋の中には、ベッドの上で寝転がる俺だけしかいない。俺の睡眠を邪魔させない為に扉の鍵を閉めて、部屋と外界をシャットアウトした。
「ふぅ、これで朝まで安眠できるだろ」
自分の世界を作り上げたことで、自分のタイミングで睡眠に入れるだろう。
わざわざ鍵を開けてまで部屋に侵入してくるバカなんてウチには居ないから、朝まで安眠できる。
何時間経っただろうか? いや、数分しか経っていないのかもしれない。
確かに俺は睡眠状態に入っていて、意識がなかったはずだ。しかし廊下から聞こえてきた物音のせいで起きてしまった。普段だったら絶対に起きないであろう音量の物音だが、勇者としての危機感が俺を起こしたということは、俺にとってよくない物音のはずだ。
「……」
段々と物音――足音は近付いてくる。そして俺の部屋の目の前で止まった。
だが部屋の扉は施錠されている。俺が物音を気にせず睡眠にさえ入ることができれば、睡眠を邪魔されることはないはずだ。
しかし鍵穴に金属製の物を差し込んだような音がした。それと同時にカチャリと鍵穴が回った音がした。
「こんなことができるのは、サイカだけだろ!!」
「起きちゃったっすか? マサさんのことを深い睡眠へと落としてあげるっす!!」
「余計なお世話だ! お前が来なければ、朝まで安眠できていたんだぞ!!」
俺たちは夜ということを配慮して、できるだけ小声で話している。しかし言葉の強さを表現するため、言葉の勢いをいつも以上に強弱をつけている。
そんなことはどうでも良くて、扉を開けて俺の世界へと侵入してきたサイカは、モコモコしたパジャマを着て、枕を持っていた。
「きっと私が来なくても安眠できてないっす」
そう言いながらサイカは俺が横になっているベッドへと入って来やがった。
「なんで入ってくるんだよ! 頭イカレてるのか!」
「イカレてなんかないっす! ただマサさんのことを思って」
サイカはそう言って、俺も入っている布団の中へと潜り込んだ。人1人分を包み込んでいる布団は不自然に盛り上がり、俺の下半身が異様に発達しているような光景に見えるだろうな。もしこんな姿を誰かに見られたら、確実に勘違いされるだろうな。また、サイカ以外に凸して来るやつなんて居ないから関係ないな。
「フラグ立ったっす」
サイカの意味が分からない発言と共に扉が開く音がした。そこに扉を開けたのは、可愛らしいパジャマに身を包んだカエデとサイカのようなモコモコパジャマに身を包むルーダだ。
「ご主人様、寝られていま――」
「前見えないよ」
ルーダはベッドの方に目をやった瞬間、カエデの視界を手のひらで塞いだ。急に視界が真っ暗になったカエデは、少し混乱しながらあわあわしていた。
「これは見なくていいものです。早く寝るとか言って女を連れ込んだクズ勇者なんで見なくていいです」
「全部言っちゃってるよ!!? いや違うけどね!!」
「……そのモッコリした物を消してから言い訳をしてください」
「モッコリ言うな! これはモッコリの範疇を超えているだろ!」
「その場所が盛り上がることをモッコリと言わずして、何がモッコリになるんでしょうか」
「モッコリ」
「モッコリ」
俺たちはモッコリを争点に色々言い争っていた。掛け合いが10を超えたところで、救世主によって停められた。
「二人ともモッコリ言うのやめて」
俺たちは、カエデにモッコリと言わせた罪悪感から言葉をつぐみ落ち込んだ。
そして落ち込んで俯いているルーダは、カエデの手を引きながら、俺とサイカのいる布団へと入ってきた。
「なんで今の流れで入ってくるんだよ! 4人も同じ布団で入るなんて、狭すぎるだろ!!」
「きっとこれで寝られるようになりますよ」
「ぷはっ、マサさんは私が寝かせるっす!!」
「サイカの出る幕などないです。ご主人様を寝かせるのは私です」
「……私も寝かせようとしなきゃダメ?」
「別にダメじゃねぇぞ」
布団から顔を出したサイカは宣言した。それに対抗するかのようにルーダも宣言した。流れのせいでカエデも宣言しなければならない空気になっていたが、俺が断ち切ったことで、カエデは一人目を瞑り、深い眠りへと落ちていった。
「私が羊を数えてあげるっす!!」
「そういうのは自分でやるから意味があるんじゃないのか?」
「行くっすよ! 羊が1匹っす! ひつじが2匹っす! 羊が3匹っす!」
「っす、っす、っす、煩くて寝られるわけないだろ!!」
「しょうがないっすねぇ。羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹……」
増え続ける羊たちは、俺を睡眠から遠ざけるだけであった。
「ご主人様に必要なのは羊ではないです」
俺が眠らないのを見て悔しそうにするサイカ、そして圧倒的自信を感じられるルーダ。
俺を寝かせるためにルーダが動き出した。
睡眠編が次回も続きます
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