第42話 いい話には裏があると思った方がいい。裏がなくても失敗を気にした方がいい。でも失敗を気にしていたら成功はできない
サイカたちが数日の間、メイド喫茶ラブカマで働いてもらったおかげで、ウチの家計には余裕ができた。
そろそろ鬼蜘蛛によって破壊されていた魔物の生態系も復活している頃だろうし、魔物狩りにでも行こうかな。
「マサさん、現実逃避しているところ悪いっすけど、絶対にポテスト商会に出向してもらうっすよ」
「……」
お金が貯まったとはいえ、ウチの家計は収入に対しての出費が多すぎるため、直ぐになくなってしまう。そんな時に救世主として家にやってきたのがリンだ。
リンは俺に対して、一定期間ポテスト商会に雇われませんか? と誘いに来た。この勧誘は俺たちにとって魅力的であり、あまりにもできすぎていた。
「なぜ今になってそんな話が出てきたんだ?」
「商会が完全に乗っ取られたことで、資金に余裕が出たからアル」
「まあ、それはあり得るな」
「あり得るもあり得ないもないアル。実際に乗っ取られて、この提案が出たことが一番の証拠アル」
「確かに乗っ取られてからこの提案が出たのは事実だが、資金に余裕ができたことが俺を雇う理由と繋がるとは言えないだろ。例えばの話だが、地上げに反対している俺を呼び寄せて、暗殺するのが目的とかな」
「そんなわけないアル。私は元とはいえ、マサヨシさんの奴隷アル。お世話になった相手に不利になる案件を持ってくるわけないアル」
「だがお前は商会の人間なんだろ?」
俺の質問に言葉は返って来ない。以前ウチを訪ねてきた時に言っていたが、こいつは俺の元奴隷という立場ではなく、ポテスト商会のリンという立場でウチに来ている。だからこそポテスト商会にとって不利益になることは言わないだろうし、逆に俺にとって不利益なことだろうと、ポテスト商会にとって利益になることであれば、躊躇なくやるはずだ。
「聞こえなかったアル」
「だからお前は商会の人間なんだろ?」
「聞こえないアル」
「だーかーらー、お前は商会の人間なんだろ?」
「聞かないアル」
「だか――って! それはお前の加減しだいだろ!!」
さっきまでのは耳の問題と取れるが、最後のは自分の意思で聞かないようにしてるじゃねえかよ。そもそも最初から聞こえているのにスルーしているだけだろうな。
「はあ、お前が言わなくてもこっちで勝手に思っているから、別に言わなくてもいいんだけどな」
「そうアルか。じゃあ明日からよろしくアル」
「おい! 俺は行くなんて返事してねえぞ!!」
「でも後ろの人たちは賛成してるアル」
振り返った先には、親指を立ててサムズアップしている女性陣の姿がある。いつも寝ているルナや普段だったらしないであろうカエデもやっている。そしていつも通り先頭に立っているのはサイカだ。
「サイカ、これはどういうつもりだ?」
軽く問いただしてやった。
「マサさんなら死なないと信じているっす」
「それはつまり、罠だと分かったうえで送り出しているよな!? いくら勝てると分かっている戦場でも、わざわざ罠にかかりには行かねえぞ」
「マサさんなら大丈夫っすよ。もしもの時は私たちが弔ってあげるっすから、安心していってくださいっす」
「その“いって”はどういう意味の“いって”なんだよ。もしかして逝くの方なのか!? もしそうなら、いい歳して泣くぞ。見ているほうがドン引きするほど泣きわめくぞ」
「もちろん行くの方っすよ。マサさんが子供みたいに泣きわめく姿も見てみたい気もするっすけど、マサさんに幻滅したくないっすから、止めておくっすね」
「それは英断だな。いい歳した大人の泣きわめく姿は百年の恋も冷めるからな」
まあ百年の恋なんてヒトには無理だから、魔族だったり、少数民族だったりにしか通じない言葉だろうな。
「なっ!? 私はマサさんに恋なんてしてないっす!! まあ、マサさんはイケメンで甲斐性もあるっすけど、クズっすから!!! 恋なんてしてないっす!!!」
……例えに決まってるだろ。サイカが俺に恋しているなんて思ったことねえよ。
「もういいや。ここで断っても家での居心地が悪くなるだけだしな」
「じゃあ、明日の昼頃に商館に来るアル。じゃあ私は返るネ」
まだ昼なら襲われる可能性は低いか。だが建物に入る以上は警戒を解くわけにもいかないし、今日は早めに寝ておくか。
「明日に向けて早く寝るから、絶対に邪魔すんなよ。お前らのせいで早寝するはめになったんだから、邪魔だけはしないでくれ」
「あっ、フラグが立ったっす」
サイカが何かほざいているような気がするが、気のせいだろ。これだけ言っておいて、邪魔するようなバカはウチにはいないはずだ。
フラグ建築
次回!! マサヨシは快適な睡眠につくことができるのか!!? ベッドスタンバイ!!
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