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第41話 組織に同率のトップが複数人いると、目的を定めることが難しくなる

「女の子に希少性とか言っちゃだめよォ!」


 確かにクロムは失礼なことを言ったが、代償が重すぎるな。マルコの丸太かと思う右腕から放たれた拳は、クロムの頬を捉えて、壁まで殴り飛ばしていた。

 壁に激突したクロムは完全にノビているな。しかしこれだけ怖いことをしても女性陣からマルコに送られている視線は英雄を見るような目だ。マルコのことをクロムから助けてくれた英雄とでも思っているんだろうな。


「あら、騎士なのに弱っちいわね」


「おまっむぐ――」


「ご主人様、今は余計なことを言うべきではないです」


 俺は「お前が強すぎるだけだ」と言おうと思っていたが、ルーダに口を塞がれて止められてしまった。

 俺の言葉を遮られた意趣返しとして、俺の口元を押さえているルーダの掌を舐めてやった。


「んんっあ……ゴッホン、ご主人様、変な声を上げるのは止めてください」


 思っていた以上の変な声が出たな。それにしてもルーダよ、咳払いして、俺に責任を押し付けようとしているが、ここにいる奴らは全員ルーダの方を見ているから意味ないぞ。


「――っは!? 今すごい声が聞こえた気がする!!」


「気のせいよぉ」


 ルーダの声に釣られてクロムが目覚めたが、すぐにうなじ付近へとマルコの繊細な手刀が振り下ろされ、またもや瞳を閉じることになった。


「ほらほら、別のお客様が来るかもしれないんだから、気を引き締めなさぁーい」


 マルコは顔を赤く染めて俯いているルーダを気にしてか、サイカたちの視線をルーダから逸らすような声掛けをしている。こういった配慮ができるようなやつがモテるんだろうな。


「……マルコは知っているか?」


「あら、何かしら?」


「ペシムス商会によるポテスト商会の乗っ取りの件だ」


「まあ、私も商人の端くれだからねぇ、耳にはしているわよ。それがどうかしたのかしら?」


 ポテスト商会は俺の元奴隷であるリンが現在所属している商会だ。魔物の素材を中心に扱っているが、ペシムス商会に乗っ取られたら、なんとしてもおばちゃんの土地を地上げするらしいからな。身近な商人であるマルコに聞いてみたが、やはり業界では有名なことなのか……。


「あそこは魔物の素材を中心に扱っているが、乗っ取られたら地上げを行うってのは、知っているか?」


「……龍脈のことかしら?」


「龍脈だと」


 龍脈とは世界をめぐる魔力の流れが太い部分であり、世界に点在しているものだ。しかしその龍脈がおばちゃんの土地にあるっていうのか?


「ペシムス商会のトップである災合衆(さいごうしゅう)の半分が魔族に乗っ取られているらしいわ」


「災合衆か……」


 災合衆はペシムス商会の創設メンバーであり、その1人1人が一貴族に匹敵する財力を持つ大富豪と言われている。そんなこの国有数の富豪が魔族に乗っ取られているなんて、思っていた以上にこの国は終わりに近づいているのか……。


「だが、それと地上げにどんな関係があるんだよ」


「……マサちゃんは全ての魔族を治める王、魔王の目的は知っているかしら?」


「世界征服とかじゃないのか?」


「違うわ。確かに世界征服も目的にあるわ。ただ世界征服は、真の目的の達成に必要なプロセスの一つに過ぎないわ」


 そうなのか……いや、マルコはなぜここまで詳しく知っているんだ? いくら元S級だと言っても一組織のギルドがそこまで知っているとは思えない。


「マサちゃん、女の子の過去は探るべきではないわ。私はもちろんのこと、そっちの子たちもね」


 俺の考えていることを察したのか、マルコは釘を刺してきた。ここまで真剣な顔をしたマルコは久しぶりに見た気がするな。

 そして話に夢中になりすぎたあまり、ルーダたちのことを放置してしまった。慌てて目をやったが、ルーダはこちらの話を聞かないように耳栓を付けていて、サイカとカエデは楽しそうにメイド服を褒めあっていて、ルナは……言うまでもないな。


「そうだな。ウチの奴らも過去にいろいろ抱えているだろうから、聞かないようにするさ」


「ちっ、ちっ、ちっ」


 人差し指を横に振りながら舌を鳴らしたマルコ。お前の場合、腕も指も太くて、その動きだけで風圧がこっちまで来るから、止めておく方が店のためになるぞ。


「女の子には聞いてほしい時もあるのよ。そんな雰囲気を感じたら聞いてあげなきゃだめよ」


「そんなの分かるわけないだろ!」


「あら、こんなに女の子を侍らせているんだから、このくらいは分からないと、見捨てられちゃうわよ……その時は私が慰めてあげるわぁ」


 難しいことを言いやがって……と思っていたが、マルコの最後の言葉に背中に冷や汗が流れ、絶対に見捨てられないように努力することを決意することになった。


「忠告してあげる。ペシムス商会はマサちゃんが思っている以上に強大で、狡猾よ。これ以上首を突っ込むのなら、その命を懸ける覚悟で行きなさい。それができないのなら、土地は諦めなさい」


「……」


 マルコの言葉は俺の心に深く突き刺さり、何も言うことができなかった。そんなメイド喫茶にはサイカとカエデの歓談の声と、ルナのいびき声が響き渡っていた。



クロムはノビたままです。

マルコの慰めとはどんなことなんでしょうね。

次の話からリンの所属する商会、ポテスト商会に関する話になっていきます。この章の本筋に関わる話になっていきますので、見ていただけると嬉しいです。


皆様に☆やブックマークを押していただけると、マサヨシがマルコの慰めを受ける確率が減りますので、何卒お願いします。

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