第40話 コスプレはガチの人を見た後だと、「コスプレだな」としか思えなくなってしまう
更衣室から出てきたカエデは小さい身体のせいで、メイド服は全体的にブカブカで、必然的に萌え袖になっている。可愛らしいという言葉が一番合う恰好だが、メイド喫茶で働く従業員という観点で見ると少し適していないかもな。
「カエデ、似合っているな」
「でも、ブカブカだよ?」
「それがいいんだよ。なあサイカ」
少し自信なさげなカエデに自信を持たせるため、サイカに賛同を求めた。サイカがこちらの意図を理解できるはずがないため、サイカの心からの感想になってしまうが、カエデが可愛いのには変わりないため大丈夫だろう。
「カエデちゃんはかなり可愛いっすよ。まあ私には及ばないっすけどね」
「メイドとしてならサイカの方が似合ってるかもな」
「マサさんが素直に私を褒めるなんて……マサさんが壊れちゃったっす!!」
「ご主人様は元から壊れています」
「お前が一番辛辣だな!」
全く酷い言い草だな。俺はルーダの主人のはずなんだがな……。
「私は事実を述べただけですが、ご主人様が受け入れたくない事実を耳に入れないような人間でしたら、次からはしないように心がけますが、ご主人様はどのような人間なのでしょうか?」
「……はあ、俺が悪かったから、次からも正直に話してくれ」
「かしこまりました」
……謝っておいてなんだが、俺は壊れてないから、ルーダの話は前提から崩壊していないか!?
「まだルナちゃんが残っているんだから、世間話はそこまでよ」
マルコはルナの身分を知らないから、ちゃん付けで呼べるんだろうな。まあルナ自身もああいう性格だから、あまり気にしてないだろうけどな。しかしメイドを侍らせる側のルナにメイド服を着せるなんて、背徳感があるな。
「どうだ! 似合ってると言え!」
更衣室から言葉の通り飛び出してきたルナは、よく言えばコスプレ、悪く言えば根っからの貴族と形容するのが一番適しているメイド姿だな。着ているメイド服は、サイカたちとほぼ変わらない種類だが、着ている人間の着こなしと言うべきか、雰囲気が違うと言うべきか、とにかくコスプレの域を出ないメイド姿だ。
「(コスプレとしては)似合ってるぞ」
「当たり前だろ」
なんで褒めたのに殴られるんだよ。女性――いや、この場合はルナと言うべきだな。ルナの考えていることが分からねえよ。
「あら、ルナちゃんもそうなのね」
マルコは何か分かったような感じでルナのことを見ているが、そこそこの付き合いである俺が分からなくて、出会ったばかりのお前が分かるわけないだろ。
「よし、メイドも揃ったことだし、開店しちゃうわね」
「おい、メイドとしての作法を何も教えてないが、大丈夫なのか?」
「マサちゃんみたいな社会不適合者の家に住んでいるから、必然的にできるようになってるわよ。じゃあ開店!!」
「ウチはルーダが……って開店しやがった」
ウチの家事は完璧奴隷のルーダが取り仕切って、たまにカエデが手伝うくらいで、サイカとルナは社不ニートだぞ。同じ社不でも俺はニートではないから、俺以上にタチが悪い奴らだ。
「開店してしまった以上は、私たちは見守りましょう」
「お前が参加してさえいれば安心だったのによ」
「……先ほども言いましたが、私が奉仕するのはご主人様だけです。これは私の奴隷としての矜持です」
「……そうかよ」
真正面から気持ちを伝えられると、恥ずかしくて顔が見れなくなる。ルーダも自分で言っていて恥ずかしくなったのか、顔を赤く染めて俯いてしまった。
「あら、いらっしゃいませ、ご主人様」
開店から数十秒しか経ってないのに、もう客が来たのかよ。宣伝とかもしてないだろうから、たまたま店の前を通ったか、この店の常連で店の前を張っていたとしか思えないな。
そんな客の顔を見てやろうと入口の方へと視線をやった。視線の先には顔を引き攣らせたサイカと、私服であろう赤色のギンガムチェックのシャツをジーンズのズボンにインし、頭にはバンダナを巻いたクロムが客として来店している姿があった。
「おい、あれってクロムだよな」
「雰囲気はかなり違いますが、クロムさんで間違いないと思います」
俺はクロムに気づかれないように小声で話しかけた。
それにして忠誠バカのあいつでも欲はあるんだな。やっぱり忠誠心だけではストレスで心が壊れちまうから、メイド喫茶で可愛い女性メイドを侍らしている気分になって、ストレスを発散しているのか?
「店長、今日は新人ちゃんしかいないのか?」
「そうなのよ。みんな風邪で休んじゃったから、代打で来た今日限定の子たちなのよ」
「なるほど、希少性が高いというわけか」
しかもこいつ常連かよ!!?
騎士のクロムはメイド喫茶常連のオタクでした。
皆様に☆や♡を押していただけると、メイドたちの可愛い接客が見れるようになるかもしれないので、何卒お願いします。




