第39話 クズというのは自分の力で稼げなくとも、人に稼がせようとする力がある
「とにかく稼いでもらわないと、明日の生活すらもままならないですよ」
「一応稼ぎのアテはあるんだが、サイカたちにも一肌脱いで貰わないといけなくなるんだ」
「――!! 諜報以外で初めて頼られた気がするっす!!」
サイカは喜びを抑えきれないのか、口を噛み締めながら言葉を発していた。
……俺は罪悪感から心が傷んだ。
「私もカエデも奴隷ですから、もちろん手伝いますよ」
「面白そうだし、手伝ってやってもいいぞ」
「……ルナは大丈夫です」
「――ムカついたから、絶対に行ってやる」
ルナは青筋を浮かべながら、怒りを抑えるように語気を強めている。
ルナがガチギレしたら、俺でも止められないんだから、やめて欲しいわ。
「マサさん、見当違いなことを考えてるみたいっすけど、自業自得っすよ」
「何度も言うが、人の心を読むなよ」
「……ご主人様、こうやって無駄話を続けていたら、前回のように何も進まない回になってしまいますよ」
「メタい、メタ過ぎるぞ」
「確かにメタいっすけど、ルーダさんの言い分が100%正しいっす」
「お前らがそう言うのなら、仕事場に行くか」
思った以上に乗り気のルーダたちを連れて仕事場となる場所へと向かった。
女性陣4人に囲まれた俺はいつも以上にヒソヒソと話されている。傍から見たらハーレムクソ野郎だが、実際はポンコツ諜報員、完璧奴隷、最強暴力女、癒し枠奴隷……まあ欲情できるような相手いない。
まあ見てくれだけはいいから、これからやる仕事には最適だろ。
「マサさん、ここって」
「ああ、そうだ」
俺が連れてきたのはメイド喫茶だ。
ここの店長とは少し繋がりがあって、その店長が言うには、メイドたちの間で病気の集団感染が起きて、人手が足りないらしい。
そこで金欠の俺が立候補したんだ。
「あー、なんか用事を思い出したような気がするっす」
「つべこべ言っていないで行きますよ」
「あれ!? ルーダさんが意外に乗り気っす!!」
「楽しそうだ」
「……メイドは楽しそうだよ?」
「私以外、全員乗り気だったっす!!? マサさんが何か根回しをしたんすか?」
これは俺も想定外だ。だからこっちを睨み付けるのは見当違いだぞ。
「なんか刺されたような気がするっす」
「気のせいだろ」
ルーダたちに流されたサイカを連れて俺たちは入店した。そして俺たちは店長との面接を始めた。
「いやぁ、マサちゃんがうちで働くのかと思ってメイクの準備を頑張ったけど、奴隷ちゃん達なのねぇ」
「俺が働くわけないだろ」
こいつはマルコ。全身が筋肉という鎧に包まれた化け物みたいな《《漢》》だ。
所属のメイドは整った顔と完璧な接客でかなりの集客力を持っているが、この漢も接客に出ることで店の人気は中堅止まりになってしまっている。
今現在のこの“メイド喫茶ラブカマ”はマルコ一人で回しているため、コアな客しかこない地獄になっている。
「マサちゃんも顔は整ってるから、人気出ると思うわよ。まあ私ほどじゃないけどね」
「背中がゾワッとするから、ウインクしてくんじゃねぇ」
「酷いじゃない」
豪腕の握り拳が俺の頬を捉えた。俺の肉体は一瞬にして壁まで吹き飛ばされ、壁に巨大なクレーターを作り出した。
「ルナさんより強いっすよ」
「彼は元S級ですから、そこらの勇者よりも強いですよ」
「彼じゃないでしょ、ルーダちゃん」
「失礼しました」
数回面識があるルーダは慣れたようで、全く動じていないな。
それに反してこういった存在とは一切関わることがないであろうルナは、驚きで口が空いたまま閉じないようだ。
「開店時間も迫ってきてるから、参加する子は着替えてきてねぇ」
俺以外の奴らは全員更衣室へと消えていった。この場に残ったのは俺とルーダだけだ。
「いや、なんでお前が残っているんだよ! あの流れは、残るとしてもサイカだろ!!」
「私は『行きますよ』と言っただけですので」
「確かに! 何も否定できねぇ」
「それに私が奉仕するのはご主人様だけですよ」
「えっ」
目と目が合う瞬間好きだt――
「私たちが着替えている間に、なにラブコメ始めてるっすか!」
メイド服に身を包んだサイカたちが更衣室から出てきた。
サイカのメイド服はノースリーブからチラリと見える腋、小さなお胸の周りには多数のヒラヒラ、下半身はロングスカートによって完全に守られているが、その中の太腿には暗器を隠すためのベルトが巻かれているだろうな。
「なんかキモいっす」
辛辣な言葉から心を癒すためにカエデの方に視線をやった。
自分の力ではなく、周りの女性の力で金を稼ぐことを知ってしまいました。立派なクズへの第一歩ですね。
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