第38話 Q.YESしか許さないNPCはなぜ存在しているのか? A.そういった人間が実際にいるから
「それで、ほぼ稼ぎがないまま帰ってきたわけですか?」
糸に包まれたクロムを捨て置いて、帰宅した俺を待っていたのは、ルーダからの言葉の圧力だ。淡々と事実を述べているだけだが、その言葉の端々にはトゲが感じられて、とにかく心が痛い。
反省の意を見せるために正座をしてみたが、ルーダの心には、全くと言っていいほど届いていないな。
「はい……でも一応稼ぎはしたぞ」
「ウチには、ほとんど仕事がないのに大金をせしめる穀潰しがいます。それでも胸を張って稼いだと言えますか?」
「あれ? それって私のことっすよね!? マサさんのことを責める流れだったはずなのに、私が責められてるっす!!」
「それは事実だしな」
サイカの方にヘイトが向いたのを利用して、俺はその場から逃げ出すため、正座していた足を崩した。
「……いい大人がみっともないですよ」
「なんだよその手は!」
長時間星座をしていたことで足が痺れてしまい、立つのもままならず、地面に伏してしまった。傍から見た俺の姿は随分と滑稽だろうな。
だが、痺れたふくらはぎの方を見ながら、手をワキワキするのは止めてくれ!
「今までのお返しっす!」
「アァァァァ」
サイカの手が俺のふくらはぎに触れた瞬間、なんとも形容しがたい痛みが足に走った。俺の絶叫は家中に聞こえていたらしく、カエデとルナが慌てて部屋から出てきた。
そして事の顛末を聞いたカエデは俺の事を心配してくれ、ルナは大爆笑しながら無茶振りを放ってきた。
「私も見たいから、もう一度足を痺れさせろ」
「嫌に決まってるだろ!」
あの時は俺のことを見直したとほざいていたが、以前と扱いが変わってねぇじゃねえか。
「痺れさせろ」
「嫌だ!」
「痺れさせろ」
「いや――」
「痺れさせろ」
「い――」
「痺れさせろ」
こちらに有無を言わさないルナだが、今度こそ折れないぞ。そもそも足を痺れさせるのを故意にやるなんて無理だろ。
「痺れさせろ」
「――」
「痺れさせろ」
もう何も言わせてくれなくなったよ。それでも俺は折れないぞ。折れていいのは破滅フラグだけだ。
「ルーダさん、どっちが先に折れるか賭けないっすか?」
「私はご主人様が折れると思います」
「それだと賭けにならないっすよ」
おい、お前らは俺が折れると思ってるのかよ。
あと俺が賭けで一文無しみたいな状況になっているんだから、少しは配慮して賭けは止めておけよ。
「……」
よし! 遂にルナが黙ったぞ。これで我慢対決は俺の勝ちだな。
「痺れさせろって言ってんだろ!!」
ルナは俺の頬へと綺麗な右ストレートを放ってきた。避けようと思えば避けられたが、避けることはせず、甘んじて受け入れた。そう、避けようと思えば避けられたんだ。見に切れずに受けた訳では無いぞ!!
殴られた俺は壁まで殴り飛ばされた。
「結局こうなるのかよ」
俺のことを殴って満足したのか、ルナは満足気な顔をしながら部屋へと帰っていった。
「じゃあ俺も部屋に帰ろうかな」
「……ご主人様、逃げるおつもりですか?」
どさくさに紛れて逃げようとしたが、逃げられなかった。きっとルーダはすばやさが高いんだろうな。
ここで俺が取れる選択は二つある。
まず一つ目はルーダの言葉は聞こえなかったフリをして部屋に帰る。この行動は、この場を収めることはできるが、女性陣からの好感度が最低まで落ちるだろうな。
もう一つはルーダの言葉を受け止めて、もう一度正座をし直すことだ。この行動は、ここまでやってきたことがほぼ無駄だったことになるだろう。この話が全く進んでいないも同然の1話になってしまう。
「……そんなわけないだろ」
強がって言葉を吐いて見せたが、身体は滑らかに正座へと移行し、主人としての威厳を見せてやった。
「鏡見た方がいいっすよ」
「ナチュラルに心を読むな」
「はぁ、とにかくお金を稼いで頂けないと、売らないといけなくなりますよ」
「そうだな。ルーダとカエデを売るわけにはいかないもんな」
「なにをほざいているんですか? 売るのは私たちではなく、ご主人様の貞操をホm――」
「嫌だァァァァ!!!!」
ここ一番の叫びが出た。
そういう癖を否定する訳では無いが、俺には無理だ! いくら俺の顔が整っているからといって、男に売るのは止めてくれ。
そしてサイカよ。勝手に人の心を読んで、何言ってんだこいつみたいな顔をするのは止めろ。
「何言ってんだこいつ」
サイカ、語尾消えてんぞ。
何も進みませんでした。
きっと次回こそお金を稼ぎに行きます。絶対に
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