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第36話 蜘蛛の糸は人間からしたら縋れるようなものではない

 俺の剣は、頑丈な鬼蜘蛛の外骨格にヒビを入れるに留まってしまった。しかし倒すには至らなかったが、鬼蜘蛛の気を引くことには成功したし、結果的には成功だな。


「クロム、お前は足手まといだから、サイカと一緒に居ろ」


「ああ、分かった」


 クロムはプライドが高いから、俺の言うことを聞くかどうかは五分五分だったが、鬼蜘蛛の恐怖が勝ったことで、俺の言うことを聞いてくれた。

 サイカとクロムは、俺と鬼蜘蛛の戦闘の余波を受けない場所まで離れたので、全力で戦うことができる。


「これでお前と俺の一対一だぞ」


 俺の言葉を本能的に理解したのか、鬼蜘蛛は人間にとっては不愉快な音を発している。これが戦うことへの喜びなのか、獲物を逃したことへの怒りなのか、俺には判断がつかないが、鬼蜘蛛が戦闘に対して意欲的だってことだけは分かる。


「最初から本気で行くぞ! 【光の刃(ホーリーブレイド)】」


 俺は光属性の魔力を刃に纏わせた。

 刹那、鬼蜘蛛は口元から蜘蛛の糸を吐きかけてきた。俺の光属性の魔力を警戒してのことだろうが、蜘蛛の糸程度で止められるほど光属性の上級魔法は弱くはない。

 俺は吐きかけられた蜘蛛の糸に対して剣を振り払った。剣が糸に触れたと同時に、糸は溶けるように消えて行く。


「俺相手に糸程度じゃ、隙すら作れねぞ」


 鬼蜘蛛の顔には焦りが見えた……まあ俺には蜘蛛の表情なんて分からないから、なんとなくだけどな。

 鬼蜘蛛は糸を吐くのを止めて、こちらの動きを様子見しているようだ。こっちから動いても勝てるだろうが、カウンターを喰らってしまう可能性もある――ほぼないが、ないとは言い切れないから、こっちからは動きたくねえな。所詮魔物だ。このじれったい状況に長い時間は耐えられないだろ。



 そう思ってから一分も経っていないが、このじれったい状況が面倒くさくなってきた。どうせ俺がカウンターを受けるはずないし、もう戦いを終わらせるか。


「魔物以下っす!」


 どこかの元諜報員が発した声のような空耳を聞き流しつつ、鬼蜘蛛の命を刈り取るため、俺は走り出した。

 相対している間、警戒を絶やさなかった鬼蜘蛛の警戒心は、俺の動きを見たことで最高潮になり、俺の動きを全て見切るかの如く瞳が動いていた。

 いくら格下とはいえ、ここまで警戒している相手に真正面から攻撃を入れるのは難しいだろうな。まあ対魔物においての経験が人とは段違いの俺からしたら、簡単なことだ。


「まだまだだな――ぶべし!」


 一度反撃を引き出してから、逆カウンターを入れようと思って、わざと隙を作りながら攻撃をしたが、普通にわざと作った隙を突かれて、手痛くはない攻撃を受けてしまった。油断ではないぞ。きっと俺が想像していたよりも鬼蜘蛛が強かっただけだ。


「人はそれを油断と呼ぶっす」


 あー! 空耳だ、空耳に違いない。


 そんな現実逃避をしつつ、体勢を立て直して鬼蜘蛛の追撃に備えた。予想通り鬼蜘蛛は、追撃のため距離を詰めてきた。こういうところは魔物らしい動きだな。

 格上相手に追撃を成功させるのというのは難しい選択だ。格上は、自分が追撃に移る間に体勢を立て直せる可能性が高く、地力で負けている以上、追撃は失敗する可能性の方が高いだろう。


 鬼蜘蛛の脚は、俺の腹を貫こうと振り下ろされた。俺は木にぶつかったことで地面に寝転がってしまったので、転がりながら避けるしかない。どこか隙を見て体勢を立て直さないと、いつかは体力が切れちまうな。だが鬼蜘蛛の連撃は俺が立ち上がれる一瞬の隙すら許さず、俺の命が尽きるまで続くような連撃だ。


「……所詮魔物に過ぎないな」


 腹を狙って振り下ろされた鬼蜘蛛の脚を斬り裂いた。関節を狙った俺の刃は鬼蜘蛛の脚を切断した。1本の脚を失った鬼蜘蛛は、バランスを崩し、先程までの俊敏さは見る影もないな。


「お前から速さを奪ったら、そこら辺の蜘蛛と変わらないな」


 俺の攻撃を避けるすべを失い、逃げることすら叶わない鬼蜘蛛へと、容赦のない刃を振り下ろした。



この作品は主人公が強いんです! ただのボケ、ツッコミキャラではありません!!

ちなみにマサヨシは世界最強とかではなく、上澄みに位置するというだけです。


皆様に☆やブックマークを押していただけると、鬼蜘蛛の売却額が跳ね上がりますので何卒お願いします。

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