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第35話 仕事に熱を入れすぎて身体を壊していたら元も子もない……が、現実はそう甘くはない

「それでクロムは、どうしてこんなところに居るんだ?」


「それはこっちのセリフだ」


「質問に質問で返してくるなよ……俺は金を稼ぐために魔物を狩りに来たんだよ」


「……魔物を狩るためにこんなところまで来たのか」


「こんな所って……確かに進みすぎていたな」


 話しながら森を進んでいたことで、想像していたよりも森の深いところまで来ていたみたいだ。まあ俺からしたら誤差みたいなものだから、そこまで気にする必要はないけどな。

 だがこんな深い森に貴族に仕える騎士が居ることが余計に気になって来たな。


「俺は質問に答えたんだ。お前も答えてくれるよな?」


「私は任務で来ているだけだ」


「任務? こんな深いところまでか?」


「質問には答えたから、これ以上教える義務はない」


 そう言ってクロムは、森のさらに深い場所へと消えて行った。あいつの実力的に、ここより先に出てくる魔物は厳しいと思うが、それは承知の上で進んでいるだろうから、俺が何か言うことではないか。


「良いんすか? クロムさんだと死ぬっすよ?」


「お前でも分かるんだ。あいつも承知の上で進んでいるんだろ。なら、俺たちに止める資格はねえよ」


「でもあの人は忠誠バカっすよ」


「……」


 それは一理ある。あいつは辺境伯に命令されれば、自分の身の丈に合わないことにすら挑戦するような忠誠バカな人間だ。命令されたことに忠実過ぎて深く考えることなく進んでいる可能性もあるな。


「確かにそうかもしれないが、俺たちには関係ないことだろ。わざわざ金稼ぎを中断してまで、起こるか分からない顔見知り程度の相手のピンチを救いに行くなんてしたくねえよ」


「そうかもしれないっすけど……」


 サイカは諦めなさそうだな。もし無理にでも諦めさせたら、後に引きずって面倒くさそうだ。

 それにしても、人を見捨てられないこいつには諜報員なんて向いてねえし、辞めて良かったな。


「やっぱりお前は諜報員に向いていないな」


「急になんすか!? 私のことを怒らせて、クロムさんのことを忘れさせるつもりっすか! 流石の私でもそこまでポンコツじゃないっすよ!!」


「そんなつもりじゃねえよ。まあ、なんだ、お前の熱意には脱帽だよ」


「それじゃあ!」


「あいつを囮に魔物を集めて、俺たちは横から搔っ攫うぞ」


「最低っす!! 想定をはるかに超える最低さっす!!」


 最低もなにも、何もせず助けるだけなんて時間の無駄でしかないだろ。それにあいつだって、俺に助けられるのは、プライドが許さないだろ。


「まあ、マサさんなりの優しさっすね」


「優しさなんかじゃねえよ。それが魔物を集めるのに一番合理的だって話だ」


「はいはい、そうっすね」


 絶対に思ってないだろ……


 俺たちは森の奥へと消えたクロムを追って森を進んでいる。


「なんでこうも雑魚ばかりしかいないんだ? これの調査が任務なのか?」


 俺たちがエンカウントする魔物は、強い魔物が多いはずの森の深部に相応しくない弱い魔物ばかりだ。今接敵しているのもコボルトで、サイカ一人に任せても安心な相手だ。


「もしかしてクロムさんは、この状況を知っていて森を進んだのかもしれないっすね」


「……あいつがバカすぎるだけだろ」


 なんとなくだが、そんな感じがする。


「そうっすね。クロムさんはバカっぽいっすもんね」


 サイカよ、お前も変わらんぞ。


「それにしても全然追いつかないっすね。私たちの方が魔物とのエンカウントは少ないはずっすのにね」


「任務に気合が入りすぎているんだろ」


 流石に冗談で言ったが、忠誠バカのあいつなら有り得ない事ではないため、少しだけ怖いな。


「あれはクロムさんじゃないっすか?」


 サイカが指さす方向には、生い茂る生い茂る木の葉の間を抜けてきた太陽の光が、鎧に反射している光が見える。そして微かにだが、剣が鋼に弾かれるような音も聞こえてくる。


「……雑魚しか出てこない元凶と戦っているのかもな」


「なに悠長なことを言っているんすか!! 早く助けに行くっすよ!!」


 サイカに手を引かれて無理矢理クロムの元へと連れていかれた。

 いくらクロムがそこまで強くないからって、そこらの魔物相手に苦戦はしない。そんなクロムの剣戟に耐える魔物が居るのだとしたら、大金になるかもな。


「なに金の事を考えているっすか! 今はあの魔物を倒すことだけを考えてくださいっす!」


 クロムに近づいたことで、相対している魔物の全貌も見えてきた。

 四対の脚、剣を弾いた鋼のような外骨格、背中には鬼の顔のように見える模様、そしてクロムの剣をかみ砕いた強靭な牙と顎……魔王に仕える四天王と呼ばれる四人の魔族が一人、暴食の女王蜘蛛。その眷族である鬼蜘蛛だ。


「クロムさんがやばいっすよ!!」


「分かってる!!」


 剣をかみ砕かれながらも抵抗の意思を見せているクロムだが、鬼蜘蛛は抵抗の意思ごと喰らってしまうだろうな。暴食の名を冠する女王蜘蛛から生まれた鬼蜘蛛も暴食の魔力を持っている。その魔力は常時飢餓感に襲われる代わりに、どんなものでも喰らうことができる力を持つ。それは感情や記憶、魔力にも及ぶからな。

 俺は、クロムを喰らうために口を開いている鬼蜘蛛の背中へと剣を振り下ろした。



次回は久しぶりに魔物との戦闘が描写されます。

この作品において暴食の魔力とは、とある魔族の突然変異から生まれた特別な魔力なので、他の七つの大罪の魔力が存在するとは限りません。


皆様に☆やブックマークを押していただけると、クロムの生存確率が上がりますので何卒お願いします。

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