第34話 ドラゴンというのは強大な敵だと思いがちである
「はぁ、なんでムキになっちまったんだろうな。おかげで無一文だよ」
「自業自得っすね」
「別に着いて来なくてもいいんだぞ。強い魔物を数匹狩れば、金は手に入るからな」
「流石に仕事もせず、無一文のクズ野郎からお金を貰うのは心苦しいっすからね」
「優しさアピールのように見えるが、悪口言っているよな!? 間違ってはいないが、時に事実は心を引き裂く刃になるからな!!」
「傷付いたっすか?」
「いや、全く」
この程度で傷付いていたら、俺の心はズタズタのボロボロで、原型が分からないくらいの誹謗中傷を受けて来たからな。
ちなみに行き過ぎた誹謗中傷は実力行使で潰してきたから、精神が病むことはなかったな……意味は分かるよな? まあ基本的には受け入れているけどな。
「マサさんが言葉で傷つくなんて想像できないっす」
「いらない信頼だな」
「そうっす! 私はマサさんのことを信頼しているっす」
ストレートに言ったつもりだが、これでも伝わらないのか。サイカの耳にはポジティブな言葉しか届かないのかもな。
「それでマサさん、これからどんな魔物を狩るつもりっすか?」
「まだ決めていないが、金になるのはドラゴンの素材だよな」
「ドラゴンっすか!?」
「なに驚いているんだよ。最近もリオレイスと戦っただろ」
「えっ? あれはネタキャラだったんじゃないっすか?」
「あれも立派なドラゴンの一種だろ」
俺なら簡単に倒せる魔物だが、ギルドに所属している奴らで言えば、最低でもA級クラスの奴にしか無理だろうな。……ペシムス商会の傘下にある武装組織には、リオレイスを簡単に倒せる奴がゴロゴロいるみたいだがな。
「あれもドラゴンだったんすね。……マサさんが勇者だったことを思い出したっす」
「まあ上級魔法が使える奴なら簡単に倒せると思うぞ」
「……身近に二人いるから感覚が狂うっすけど、上級魔法を使える人間は、一握りの人間っすよ」
「それもそうだな」
話を終えた俺たちは、金になりそうな魔物を探しつつ森を進んでいた。この森は街から近いこともあって、強い魔物は一切見つからないな。
「ゴブリンとか、コボルトとか私でも倒せる魔物ばっかり出てくるっすね」
「そりゃあ、こんな街から近いところに強い魔物が現れたら、すぐに辺境伯が騎士でも派遣して処理するからな」
なにかフラグが立ったような気もするが、気のせいだと思いたい。
「むっ、誰か近づいてくるっす」
「街から近いとはいえ、一般人は来るはずがない場所だし、盗賊みたいな犯罪者か?」
サイカも居るので奇襲を受けることはほぼないだろうが、念のため警戒心を強めた。俺が剣を抜いたのに合わせて盗賊(仮)は走り出した。
「草木に隠れて顔が見えねえな。チッ、思っていたよりもやれるな」
走り姿ができる者のそれなので、俺は一段階警戒心を強め、剣の握る力を強めた。そして盗賊(仮)と相見えたと同時に俺と相手の剣はぶつかり合った。その場に鳴り響いているのは、激しい火花を散らしながら競り合う剣の音、そして俺と相手の叫び声だ。
「「お前は!」」
「誰だったっけ?」
なんとなく見覚えはあるんだが、どこで見たのか思い出せない地味な顔立ちだ。
「もう忘れたのかクズ勇者!」
「あー、覚えているぞ。あれだろ、小さいころ一緒に遊んでいた中島君だろ」
「誰だよ中島君!! 私は中島などではない!! ルーメイル辺境伯に仕える騎士、クロムだ」
「あー、そうだそうだ。忠誠バカのクロムね」
「誰が忠誠バカだ!!」
「マサさん、本当のことでも言っちゃダメなことがあるっすよ。まあ忠誠バカなのは否定しようのない事実だから仕方ないっすけどね」
サイカは俺の耳元に口を寄せて話しているが、その声は大きく、俺の鼓膜を犠牲にクロムまで届いているだろう。
「お前聞こえているからな! わざとだろ! その距離に鼓膜があって出したらいけない声量だぞ!!」
「そうっすよ。私は聞こえるように言ったっす」
開き直ったサイカは、少し不満げな顔で言っていた。そんなことはどうでもいいから、こっち向いて俺に謝れ。サイカの正面に回り込んで目を合わそうとするが、俺の動きに合わせて顔を動かすため、全く目を合わすことができない。
「おいこっちを見ろよ」
「なんのことっすか? 私は見ようとしているのに、マサさんが動いているから見えないんすよ」
「じゃあ止まるから、こっちを見ろよ」
俺は動きを止めた。それに合わせてサイカも動きを止めた……俺が居る反対側に顔を向けて。
「俺は止まっているから、こっちを見ろよ」
「クロムさんが私のことをいやらしい目で見てきているような気がして、目を逸らすのが怖いっす」
「誰がお前みたいな幼児体系に発情するか!」
「うわぁ、クロムお前そういう趣味なのかよ」
「二人ともひどい言い草っすよ!!」
「やっとこっちを向いたな。俺の鼓膜が傷ついたことに対する弁明はあるか?」
「……マサさんはこんなことで傷つかないっす」
「はい、アウト」
「痛ァァァァ!!」
謝罪する気がないお仕置きとして、いつも通り拳で頭をグリグリしてやった。
まああの程度の声で鼓膜が傷つくことはないけどな。
カジノで全財産スッたマサヨシの金稼ぎが始まります。
なぜ森の中にクロムが居たのか、マサヨシに諭されたクロムの心境に変化はあるのか、そんな話が続きます。
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