第32話 ギャンブルは余剰金だけで楽しむのが理想的だが、生活費を削って迷信を信じるのが一般的である
「……暇だな」
「珍しいっすね。いつもは私が言って、マサさんが聞き流している言葉っすよ」
「カジノにでも行くかな」
「カジノっすか!? やめといた方がいいっすよ!!」
「なんでそんなに焦ってるんだよ? ……もしかして破滅した経験があるのか?」
サイカはまだ若いし、そんな経験はないと信じたくて、俺は恐る恐る聞いた。
「あ、あ、あ、あ、あるるるわけけけないじゃないいいっすかかか」
「……あからさま過ぎて、指摘するのも面倒くさいな」
わざとやっているのかってくらい、焦っているな。
ギャンブルで破滅するやつの気が知れないな。ギャンブルなんて、生活の余剰金を注ぎ込むくらいが限度だろ。生活費に手を出してまでやる奴は《《クズ》》だな。
「やったことあるのなら、着いてくるか?」
「なんのこと言ってるか分からないですけど、頼りにして欲しいっす!!」
「いや、頼りにはしねぇよ。だって破滅した奴の言うことなんて信頼できるわけないだろ」
「破滅なんてしてないっす! ただお金を使いすぎて生活に困っただけっすよ!」
「それを人は破滅って言うんだよ!! はぁ、それで着いて来るってことでいいのか?」
「もちろんっす!!」
元気だな……はっ! もしかして俺の金をアテにしているのか?
「俺の金をアテにしているのなら、あげも貸しもしないぞ」
「なっ! 酷いっすよ!! さすがの私も貯金はしているっす!!」
「貯金から出すつもりかよ……」
「手持ちが無くなった場合だけっす!!」
「手持ちが無くなったのなら、諦めろよ」
「諦めないのが私の忍道っす!」
「お前は忍者ではないだ――いや、元ではあるがNINJAか。その言葉を使いたいのなら語尾を改めてからにしろ」
「そうするだってばっす」
「色々混ざって化け物みたいな語尾になってんぞ。それに“だってばね”は母親の語尾だろ」
頭に浮かんできた言葉を並べているだけなので、何の話をしているか分からない。
「もうそんな話はいいだってばっす。早くカジノに行くっすよ!!」
「俺が悪かったから、その語尾は止めてくれ」
「しょうがないっすね」
「なんで半笑いなんだよ」
半笑いで言ってきたせいか、なんかムカついてきたな。いつも通り――と言っても久しぶりになるが、あれをやるか。
「両手を握り締めてにじり寄るのはやめるっす! 今日こそはグリグリを受けないっすよ!! 受けて立つっす……いや、冗談っすから、止めてァァァァ痛いっす!! 頭がバカになるっす!!」
「安心しろ。お前は元からバカだ」
「酷いっすぅぅぅ!!!」
いつもより長めにやったため、サイカは涙目になっていた。
「マサさんに酷い目に遭わされたっす」
「おはよ――おい! マサヨシお前、遂に幼女に手を出したのかぁ!!」
いつも通り重役出勤(起床)をしてきてリビングに降りてきたルナが、涙目になっているサイカを見て勘違いしたらしく、俺の頬へと右ストレートを放ってきた。
「ぐべらぁ!」
もちろん俺は殴られて、吹き飛んだ。
「私は幼女じゃないっすよ!!」
「そうか、そうか。もう幼女じゃないもんな」
ルナはサイカのことを幼女扱いしている。それどころかあの言い方は煽ってるだろ。
「ルナさんが酷いっす! マサさんも何か言ってあげてくださいっす!!」
「あー、幼女じゃなくて、合法ロリ?」
「もっと酷いっす!! ロリって呼ばれるほどちんまりしてないっす!! 私はお姉さんボデェの持ち主なんすよ!!」
「そうだな……それでカジノには行かないのか?」
「はっ! 忘れていたっす!! 早く行かないと運が逃げるっすよ!!」
「お前たちカジノに行くのか? ならば私も連れていけ!」
「顔に出そうだし、すぐ負けるだろ」
「私を誰だと思っている? “獄炎の女王”だぞ! 火事など敵ではない!」
「いや、火事じゃなくてカジノだからな! カジノについて何も知らなかったら、ただカモられるだけだぞ」
「そうなのか……」
よし。このままゴリ押せば留守番にさせられるな。
「マサさんも経験ないくせに」
語尾を無くしてまで言う必要ねぇだろ!!
「私を騙すとはいい度胸だな勇者マサヨシ」
「騙してはねぇよ。俺もカモられるが、俺とお前では使える金に大きな差があるってだけだ」
「……」
少し大人気なかったか? だが、このくらい言っておかないと着いてきそうな勢いだったからな。
ちなみにこいつの親は貴族だが、こいつ自身の使えるお金はそこまで多くない。それどころか当主である父親ですら、豪遊していない。理由としては、貴族は収入は多いが、その分出費も多いため、副業などをやっていないと豪遊はできないからだ。
黙り込んでしまったが、こういう時は放置するのが一番だな。無理に刺激して拳を受けるのはゴメンだ。
「サイカ、ルナは置いて行くぞ」
「……私のことはルナと呼べと言っているだろ!」
「ぶべし」
そこに怒っていたのかよ!!?
全然話は進んでいませんが、次回はカジノに行きます。
なんか他の作品とかだと、ポンコツキャラは運だけはいいみたいなキャラが多いですが、サイカの場合、運は可もなく不可もなくですが、アホなのでカモられているだけです。
皆様に☆やブックマークを押していただけると、次回マサヨシが大当たりを引く確率が1%ずつ上がりますので、何卒お願いします。




