第27話 時に言葉は暴力よりも人を傷つける武器となる
「なっ!? 敵襲!! 敵襲だ!!」
誘拐犯の一人が俺たちに気付いたようで、叫び声を上げさせてしまった。まあこの距離まで近づければ、俺の縮地の射程範囲内だ。
「グハッ!」
「まず一人」
俺は縮地で一気に距離を詰め、誘拐犯の一人を袈裟斬りした。俺が狙った奴は他の奴に比べて、警戒が薄かったから、一撃で倒すことができたが、他の奴らは同じようにはいかないだろうな。
「我々は衛兵だ! 今すぐに投降しろ!!」
「逆にお前らに言うが、そいつらは犯罪者だ。庇うならお前らも同罪だぞ」
「この人たちは許可を得てここを通る!」
「なら死んでくれ」
「お前は、クズ勇者だろ! 俺らに手を出してギルドが黙っているとでも思うのか!!」
俺の顔を知っていたであろう誘拐犯が、攻撃をやめさせるために自分の身分を明かしていたが、馬鹿としか思えないな。
俺はギルドに所属しているわけでも、ギルドに依存しているわけでもない。そんな俺に対してギルドが黙ってないなんて脅し文句は全く意味の無いことだし、単純に身分を明かしただけだ。
「チッ、自分から身分をバラすなよ」
一人の男が覆面を取ったが、あいつがA級のヴィルヘルムだな。他の奴らと比べて圧倒的に覇気が感じられる。
「お前がヴィルヘルムだな」
「おー、勇者にも知られているのか。俺も有名になったもんだぜ」
「いや、誘拐まで見たことも、聞いたこともなかったぞ」
「……そういうのは、言わない約束だろ」
ヴィルヘルムは少し残念そうにしていた。大の大人のショボン顔なんて誰得だよ。可愛らしい顔立ちならまだしも、お前はダンディ系のオッサンだろ。
「俺たちは両貴族の許可を得てここに居るんだ。これ以上妨害するのなら、君たちは犯罪者になるぞ」
「お前のお仲間が言ったように俺はクズなんでな。自分の欲求を満たすためなら、犯罪者上等だ」
「チッ、後悔するなよ」
俺の言葉を聞いたヴィルヘルムは腰に差してある二本の短剣を抜いた。俺とこいつの距離はギリギリ縮地の範囲外だ。
こいつは、俺が一人目をやった時に使った縮地を見て、最大距離を測ったんだろうな。その証拠に俺が近付こうとすれば、すぐに距離を取っている。
「このままでいいのか? 俺の仲間は強いぞ」
「そっくりそのまま返すぞ。見た感じ、1人を除いて素人じゃねぇか」
やっぱり見ただけで分かるか。ルーダとカエデには、ある程度の自衛手段を教えているが、実戦は行ったことがない。実戦経験があるのと、ないのとでは、対応力において天と地ほどの差が生まれちまう……どうなるかは、サイカ次第だな。
「バレてるみたいだから言っておくが、あいつは父親に売られたんだよ」
「……そうだとしても、俺は身内の危機を見捨てるほどクズじゃねぇんだよ」
言葉を吐きながら隙を探っていたが、一切の隙がないな。A級は伊達じゃないってことか。さっきはあんなことを言ったが、ルーダとカエデは押されていた。ギルドの奴ら相手には善戦していたが、戦闘を学んでいる衛兵相手には分が悪く、劣勢になっている。
俺が速めにこいつを倒して余裕を作らねえと、やられてしまいそうだな。
「時間はお前らの味方かよ」
「いつの時代も守りが有利なんだよ」
「……」
俺は何も声に出すことなく、急に縮地を使った。ここで「行くぞ」と言ってやるほど俺はバカじゃないし、理解のできない不合理なことはやらない。無言のまま一気に距離を詰めた俺は剣を振り下ろした。
「急に無言になったら、攻撃するってバレバレだぞ」
だがそれが裏目に出てしまった。俺の行動は読まれており、袈裟斬りを狙った剣は二本の短刀によって受け止められてしまった。
「普通の奴なら受け止められない膂力を持っていると自負しているんだがな」
「この程度の攻撃を受け止められなかったら、A級は名乗れねえよ」
真剣な顔をしているから煽るつもりはなさそうだ……だが俺の攻撃をこの程度と言うのは、少しだけムカついたな。ほんの少しだがな。本当に少しだぞ!!
「一割も本気を出していないから、受け止めて当然だ。逆にこれを受け止めてくれなかったら、拍子抜けだったぞ」
煽りには煽りを返すのが一流の大人だ。どこからか「子供みたいっす!」という声が聞こえたが、近くにサイカは居ないし幻聴だろう。
「ふんっ、俺は1%も本気を出していない」
「俺だって1%も出していない」
俺の煽りに乗ってきただと!? 煽り返してくるのなら、さらに返してやるのが大人のマナーだ。どこからか「やっぱり子供っす!」という声が聞こえてきたが、近くにサイカは――
「はあはあ、俺の方が強いから諦めた方がいいんじゃないか? 無音の殺人者」
俺たちは言葉の応酬があまりに白熱しすぎて息が上がっていた。そろそろ時間も時間なので、最後の降伏勧告をした。
「それはこっちのセリフだ。|クズ勇者《ダメダメで人として終わってるクズ勇者》」
あれ? 俺の二つ名のところルビ長いし、酷すぎね? そんな酷い言葉で返してくるのなら、俺だって|無音の殺人者《サイレントキラーなんてカッコつけてはいるが、ただ影が薄いのを誤魔化しているだけのオッサン》って言っていたわ。
「少しは見直したぞ勇者!」
何を見て、聞いていたのかを問いたくなるほど的外れなことを叫ぶ声、馬車から激しく吹き荒れる炎の嵐。
バカで傲慢な“獄炎の女王”が降臨した。
――あとがき――
ルナは魔封じの腕輪で捕らえられていたはずなのにどうして復活しているのでしょうね。あー、潜入とか得意な人はきっとピッキングも得意なんだろうな~
茶番ですね。
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