第26話 裏の顔と言うのは人に見せられるものではないが、表の顔が腐った奴のは慣れているので見れる
俺の足へと回された魔力は、地面を蹴るためのエネルギーとなり、爆発的な推進力でクロムとの距離を詰めるに至る。
「――っ」
――受け止められるとは思わなかったな。
俺が縮地と共に振り下ろした剣は、クロムの腰に刺さっていた剣によって受け止められた。まあ縮地の勢いは削り切れなかったみたいで、斬撃の勢いで吹き飛んだけどな。
「はぁはぁ」
「まだ立つのか」
クロムは城壁に激突しても立ち上がった。俺には、人のために自分の命を危険に晒してまで、困難に立ち向かうなんて理解ができないな。
「騎士というのは、どんな時でも主に対する忠誠を忘れない者がなる偉大な職業だ」
「俺には理解できない思想だ。人というのは自分のために生きているに過ぎないだろ。自分の欲が人を求めれば結婚や出産するし、生活を充実させるために金を稼ぐ」
「人ってのはそんなに簡単じゃない」
「いや簡単だ。お前だってそうだ。いろいろ言っているが、偉大な職である騎士をやっている自分は凄いという自己顕示欲から騎士をやっているに過ぎないだろ」
「そんなわけないだろ!!」
「そんなに忠誠心があるというのなら、生活に必要な賃金だけ受け取って、残りは返還とかしているんだろ? 聞いたことがあるが、騎士の給料はかなり良くて、見栄っ張りな貴族だとかなりの負担になっているってな」
クロムは返事をせず俯くだけだ。
正義感とか忠誠心とかクソ喰らえだ。表向きでは正義を語っている勇者だって裏では何をしているか分からない。なら俺みたいに裏表なくクズである方が期待を裏切ることは無いし、いいと思ぅんだがな。表のいい面だけしか見ようとせず、裏は見て見ぬふりをするような奴からしたら、俺は救いようのないクズなんだろうな。
「まあ、お前の生き方を否定するわけじゃねぇよ。ただ矛盾を孕んだ思想が嫌なだけだ。じゃあな」
このまま道を通してくれれば、これ以上攻撃する必要が無くなるから、こちらとしては好都合だが……まあ無理か。
「なんと言われようと、俺は自分の任務を全うする」
「そうかい。後悔するなよ」
これ以上時間をかけていられないため、全力でクロムのことを潰すことにした。
先程よりも多量の魔力を足へと流すことで、1歩目の踏み込みは倍以上に強いものとなる。最初の動きに目が慣れてしまったクロムからしたら、速すぎて目で追えない。
「実力の伴わない自身は身を滅ぼすぞ」
クロムの懐に入った俺は剣は使わず、足で蹴り飛ばした。また城壁に激突したクロムは、今度こそ気絶して立つことはなかった。
はぁ、これから何があるか分からないから、魔力をあまり消費したくなかったが、かなり使わされたな。
「時間を喰っちまったし、急ぐぞ」
「はい」
「マサさんが勇者だったことを思い出したっす」
「勇者なんてただの称号だ。対人戦闘においては他属性の上級魔法を使う奴と変わらねぇよ」
勇者は光属性の魔法の有無で決まる名誉称号に過ぎず、上級魔法を使う奴らは横並びだ。まあ戦闘技術次第で1歩進んだり、下がったりするがな。
俺たちは誘拐犯が向かっているであろう関所の近くまで来ていた。
「あと少しで関所に着くが、斥候を頼めるかサイカ」
「分かったっす」
様子を確認するためにサイカは先行して誘拐犯の元へと行かせた。このまま俺たちが出ていったとしても、ルナを人質に取られるのは確実だからな。状況を詳しく知って、確実に奇襲するのが一番安全だ。
「もう一度聞いておくが、ここで待つつもりはないのか?」
「私も大人です。自分の身くらいは自分で守ります」
「……私もまもれる」
「ならサイカが戻り次第奇襲を仕掛けるぞ」
話しているうちにサイカが帰ってきた。その顔は少し深刻そうで、俺たちの状況が悪いことが予想できた。
「関所で向こう側の人間と話をしているみたいっす」
「やっぱり事前に密約があったのか……もしここで襲ったら俺らは犯罪者だな」
「私は奴隷ですので恩赦があると思います」
「……私も」
「私も上司ぶん殴ってるっすから、元から犯罪者みたいなものっす!」
「新たに犯罪者になるのは俺だけかよ!」
まあ、そっちの方が気が楽でいいや。
「……じゃあ行くぞ」
俺たちはルナを救うべく馬車へと襲い掛かった。
マサヨシによって簡単に倒されたクロムですが、ルーメイル辺境伯に仕える騎士の中でもかなりの実力者なので、マサヨシが強すぎるだけです。
また、マサヨシはクロムにいろいろ言っていますが、結局は自分のクズさを肯定するための言い訳なので、マサヨシの人生にも矛盾がいっぱいです。
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