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第25話 親の愛をいつまでも受けていられると思ってはいけない

「救出と言っても、誘拐先が分からないと見つけられないっすよ」


「……それを探すのがお前の仕事だろ、元諜報員」


「……あっ」


「お前働かなさ過ぎて、自分の本業を忘れてたのか?」


 やっぱりこいつはポンコツだな。


「調べてくるっす!」


 サイカは言葉を残して姿を消した。サイカの全力の移動は、俺でも目で追うことができないから、世の中の大抵の人間が気付かないうちに情報を集められるだろうな。普段のポンコツさがなかったら、完璧超人と言っても過言ではないな。


「調べてきたっす!」


 サイカが家から消えてから、たった10分。

 この短時間で情報を集めて来られるサイカの《《諜報員として》》の有能さが伺えるな。まあ言ったら調子に乗るだろうし、絶対に口に出すことは無い。


「私たちが留守にしている間にルナさんのことを襲ったのは、2台の馬車を使った覆面の人達みたいっす」


「……それだけじゃないだろ?」


 もしこれだけの情報しか持ってきていないのなら、今までの称賛は全て撤回しないといけなくなるな。

 まあ、サイカの仕事人としての面は信用しているし、心配なんてしていないがな。


「勿論っす。その覆面の奴らの一人が身に付けていた指輪はオーダーメイド品だったらしく、身元が割れたっす」


「誰だ?」


「……ギルド所属の“無音の殺人者(サイレントキラー)”ヴィルヘルムっす」


「その名は俺でも聞いたことがある。ギルド内でのランク付けで、上から二番目のA級である男だろ」


「そうっす。魔族との小競り合いで相手に断末魔も上げさせずに始末するその姿から、“無音の殺人者”と呼ばれるようになった実力者っす」


 ルナの睡眠は深いから、シーフとしての実力が高いヴィルヘルムが居たのなら、誘拐できたのも納得だ。しかし理由が分からないな。


「だが、ある程度ギルド内での地位がある男が、領主の娘を誘拐するメリットがあるのか? 余程のことがなければ、バレた時のデメリットとの釣り合いが取れないぞ」


「……私の続きを聞けば分かると思うっす」


「そうか、なら続きを聞かせてくれ」


「ヴィルヘルムを踏む覆面集団は門を越えて、別の貴族が治める領地との関所へ向かっているみたいっす」


「貴族公認の誘拐ってことか」


「それも父親が娘の誘拐を公認している最悪な誘拐っす」


 俺が予想していた中で、最も最悪な道筋になってしまったのか……。どんな理由があったとしても、娘の誘拐を認める親ってのは、クズという言葉では足りないほどの最悪な親だ。


「……俺はルナを救出しに行くから、サイカたちは留守番を頼む」


「ご主人様、私も行きます。足でまといになるのは重々承知ですが、ルナさんが危険な目にあっているのに、何もできず、家で過ごしているなんてできません」


 ルーダがここまで感情的になるなんてな。


「……流石にA級冒険者を相手にして、お前らを守り抜く保証はできない。それでも大丈夫か?」


「……私はご主人様を信じています」


「私も信じてるっす!」


「……私も……信じてるよ」


 随分と重たい信用だな。お前たちに信用されるような人間じゃないんだがな……。



 俺たちはルナを助けに行くため、街を囲う城壁の出入り口である門まで来ていた。


「勇者」


「……クロム」


 門にはルーメイル辺境伯に仕える騎士のクロムが居た。いや、俺たちに反応したところを見ると待っていたと表現するのが正しいな。


「ルーメイル辺境伯がお前らのことをお呼びだ」


「今は忙しいと言ったら?」


「無理矢理にでも連れて行く」


 そう言ってクロムは剣を構えていた。そんな立ち姿に隙は一切ない。こちらから攻めるのを躊躇させるような完璧な立ち姿には、俺でも攻めあぐねてしまうな。

 だが、時間をかけていたら関所を抜けられて追えなくなる。ここは反撃を甘んじて受け入れて強行突破するのが、一番だな。

 俺は剣を抜いて、足に魔力を回した。


「クロムさん! ルナさんが誘拐されたっす!! だから私たちを見逃して欲しいっす!!」


 サイカが俺の前に立ち、事実を淡々と述べていた。


「なんだと……」


 クロムは共犯じゃないのか? 辺境伯が糸を引いているのであれば、仕える騎士も共犯だと思っていたが、貴族の主従関係は複雑なのか?


「だが、ルナ様が誘拐されたのであれば、尚更向かうべきであろう……まさかルーメイル辺境伯を疑っているのか?」


「……だって誘拐犯たちはここを通ったんすよ」


「確かにルーメイル辺境伯が噛んでいるのなら、簡単に通れるだろうが、賄賂などやりようはあるだろ」


「誘拐犯の1人にA級が居たんすよ!」


「ギルド側が噛んでいれば、可能性はあるはずだ」


 サイカはこれ以上、クロムを言い負かすことができるような言葉を用意できないのか、黙りこくった。……俺の出番か。


「このピンポイント過ぎる呼び出しもたまたまだと言うのか?」


 足止めするかの如く、誘拐が起こった日に呼び出しをしたのが1番の証拠だと思っている。


「……それは聞いてみねば分からない」


 俺の指摘は、クロムも反論ができないのだろう。少し俯きながら言葉を紡いでいた。

 だが、この時間問答の時間も俺たちにとっては惜しい。やはり強行突破するしかないな。

 クロムを倒す覚悟を決めた俺は、改めて剣を握りしめた。



珍しくほぼネタのないシリアス回となっています。

今後もシリアス回が続いていくと思いますが、今後もご愛読お願いします。


皆様に☆やブックマークを押していただけると下痢になる呪いが黒幕へとかかりますので、何卒お願いします。



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