第13話 男の脳みそは上と下にあるが、性的なものに対してだけ挙国一致するのは人間の欠陥だろう
「なるほど、そういった経緯で雇ったのですね」
「ああ、地上げ屋を見つけるために雇った。……よくよく考えてみれば、俺はお前のことを金貨10枚で雇うなんて一回も言ってねえな」
「その気にさせておいてひどいっすよ! 私は絶対に金貨10枚で雇われるっす!!」
「雇われる側がそんな強気で金額を言ってくるなんて聞いたことないぞ! しかもまだ正式な契約は結んでねえんだぞ!!」
「私が普通だと思わないで欲しいっす!」
こいつのことを普通だと思ったことがない。しかも普通、そうやってイキるときは良い場合だけなのに、こいつは下側で普通じゃないことをイキってやがる。あっ、こいつ自称普通じゃない人間だったわ。
「まあこの件は、カモレラファミリーとの一件が全て終わってから、ゆっくり考えようぜ」
「……いいっすよ。私が活躍しすぎて金貨10枚以上で雇わざるを得ない状況にするっす」
「サイカ、お前自分のこと搦手以外は普通の女の子とか抜かしてなかったか?」
「そんなこと言った覚えはないっす! 私はツヨツヨお姉さんっすからね!!」
「……っへ」
「あっ! 今鼻で笑ったっすね!? どっちっすか!? ツヨツヨで笑ったのか、お姉さんで笑ったのか!!」
「そんなの明らかだろ」
当たり前すぎて説明する必要なんてないだろ。
「ふぅ、落ち着くっす私。マサさんは意外な答えを出した前科があるっすから、まだ怒るのは早いっす……どっちっすか?」
「お姉さんの方に決まってるだろ」
「やっぱり! なんとなくそうだと思ってたっすよ!!」
「そもそも俺はお前のことを普通の女の子だと思ったことは、一度もないしな」
「ひどいっすよ! サイカだって…女の子なんスょ…」
「俺からしたら女だろうと男だろうと扱いは変えねよ」
「ご主人様、これまで買ってきた借金奴隷の性別はどちらでしょうか?」
「なんだ急に? ……全員女だな」
そりゃ男が家に居るなんてむさ苦しいだけだ。
「扱い変えているじゃないっすか!」
「男って言うのは二種類の脳みそがある。一つは頭に、もう一つは股間にあるんだ。さっき言った扱いを変えない発言は、頭の方の脳みそが身体を支配して出たものだ。そして奴隷を買う際に身体を支配するのは股間の方の脳みそだ」
「ご主人様、サイカさんは下ネタ耐性があまりないみたいです」
サイカが顔を真っ赤にして、目を回しながらソファに倒れてやがる。
「下ネタなんて話した覚えないんだがな……」
「……」
「なんだ? 無言でこっちを見て」
本当になんなんだ? 少し下品な話になったかもしれないが、下ネタではないだろ。
「自覚がないのなら、私から言うことはないです」
「そうか? ……それで、ルーダはサイカのことどう思った?」
「……本当にポンコツだと思いましたね。ただ、私程度では見切ることのできない仮面をつけているのかもしれないですけど」
「いや、俺でもこいつは素でポンコツだと思った。まあ利害が一致する間は雇い続けるさ」
「御意 ご主人様」
「なにカッコつけてるんだよ。そんなこと初めてやるだろ」
ルーダが膝つけてカッコつけてやがる。急に変なことをやられたから背中が痒くなってきやがった。
「ご主人様、失礼します」
「痛ったァ!?」
そう言ったルーダは俺の背中を思いっきりぶっ叩いてきやがった。振りかぶりと痛みが合っていないぞ。痛すぎる。絶対に赤く腫れてるだろ!
「蚊が居ましたので」
「俺は服を着ているから背中に居ても叩く必要なかっただろ!!」
「でもかなり大きかったですよ?」
「大きいと言っても所詮蚊だろ」
ルーダが蚊を潰したであろう手のひらを見せてきたが、一気に鳥肌が立った。手のひらに居た蚊は、生前であればカブトムシ程度のサイズであったことを窺えた。
「きっも!? 一気に鳥肌が立ったぞ……てかルーダ、そのサイズの蚊を潰すなんて根性ありすぎだろ!!」
「……私は奴隷なので、オヨヨ」
「止めてくれないか!? 俺が強要しているみたいじゃないか」
「強要なんてひどいっすよ」
「お前は変なところで起きてくるな!」
「ぐへっ」
咄嗟に首へ手刀を決めちまった。おいルーダ、そもそもの始まりはお前なんだから、俺のことをDV男を見るような目で見るな!




