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第12話 鈍感、難聴系主人公が現実に居たら面倒くさいだけだ

「次ババアって言ったらタダじゃ済まさねえからな」


「もうタダで済んでいないんだが」


 俺の嘆きを聞くことなく、マードルは街の人混みへと消えて行った。相変わらずあいつはバケモンだな。俺は魔力が人よりかなり高いから肉体強度も高いはずなんだが、普通にあいつのパンチは痛てぇんだよな。


「あの人ナニモンっすか? マサヨシさんをぶん殴ったっすよ!!」


「だからマサヨシさん呼びやめろと言ってるだろ。あいつはこの街で薬屋を営んでいる女店主だ」


「職を聞いてさらに謎が深まったっすよ!?」


「まあこの街は魔族領との境界線に近いからな。ババアだろうと強くなるんだろ。たぶん」


「マサヨシさ――うーん……マサさんも分かっていないんじゃないすか!!」


「うーん、その呼び方もなんかピンと来ないな」


「面倒くさいっすねぇ!! せっかくあだ名を考えてあげたのに、それも否定するなんて! 私以上に面倒くさいっすよ!!」


「お前、自分が面倒くさいこと分かってるのかよ!」


 こいつ分かってて面倒くさい対応してるのか? それなら人を故意にイラつかせる天才だな。


「……それで家にはあとどのくらいで着くっすか?」


 あからさまに話題を逸らしてきたが、家に着いてしまったから


「それならもう着いたぞ」


「もう着いたって……もしかしてここの事っすか?」


「それ以外ないだろ」


「ほへー」


 口を広げたまま閉まらなくなっちまったな。まあいつかは治るだろうからおいていくか。扉を開けて家に入ろうとした瞬間に、サイカが慌てて動き出した。

 確かに俺の家は人に比べれば広いが、元王国勤めの人間からしたら珍しい物でもないだろ。


「こんな豪邸に住んでるなんて……よっしゃ玉の輿っすよ」


 「ごにょごにょ言って俺に聞こえてないと思ってるのかもしれないが、俺の聴覚を舐めない方がいいぞ」


「なっ!」


 なんでこいつ頬を赤く染めているんだ?


「掃除し甲斐があると思っているところ悪いが、うちには奴隷が居るからお前の出番はないぞ」


「いやどんな耳してんねん!!」


「ぶべっ」


 サイカが頭をひっぱたこうとしてきたため、頭を下げて避けようとしたが、なぜか身体が言うことをきかず、ひっぱたかれ、道端まで吹っ飛ばされた。


「痛え、やっぱりお前は普通の女じゃねえよ」


「ふぅふぅ、マサさんの耳のイカレ具合に比べれば普通っすよ」


「だから俺の耳は良いって言ってんだろ」


「……」


 サイカがジト目で見てきたが、ものすごくイラッと来たな。


「今回は頭をグリグリされるいわれはないっすよ」


 サイカは威嚇しながら俺と一定の距離を取ろうとしてる。俺が近づけば離れ、俺が離れれば近づいてくる……。


「いや、なんで近づいてくるんだよ!! ドMか!?」


「――」


「無言で頬を赤く染めるんじゃねえ!」


「あっ、ちなみに私はどっちでも行けるっすよ」


 サイカのカミングアウトに一瞬想像を浮かべてしまったが、すぐに煩悩を振り払う。こいつに欲情するなんてありえねえからな。


「あっ、今私のあられのない姿を想像したっすね。やっっらしぃー」


「ちっ」


「う、嘘っすから拳を下げるっす。いや下げてください!」


「問答無用だ!」


「ご主人様。家の目の前で大声で騒ぐのは外聞が悪いですよ」


 頭をグリグリするために一歩踏み込もうとしたが、家の中から出てきたルーダに指摘されて初めて気づいた。慌てて周りを見渡したが、俺たちを指さしてひそひそと話している人がかなりいた。


「――確かにな」


 かなり慌てているが、表には出さず、冷静を装って家へと入った。一緒に暮らしているルーダにはバレているかもしれないが、浅い付き合いのサイカにはバレてないだろ。


「――」


 ジト目でこっちを見ているような気がするが、気のせいだ。俺のポーカーフェイスは、付き合いの浅い奴に見破れるほど柔くないはずだ。


「マサさんが満足しているならいいっす」


「なんのことだ?」


「ご主人様、そちらはどちら様ですか?」


「新しく雇ったサイカだ」


「いくらで、どういった役割で雇ったのですか?」


「金貨10枚で、役割は……裏方?」


「私とカエデで足りていますが? そもそも裏方に金貨10枚なんて破格過ぎますよ」


 確かに今回のマフィアとの戦いが終わったらお役御免になっちまうな。


「サイカ、これからのご活躍を心からお祈りしています」


「私を雇わないつもりっすか!? 冗談っすよね! 約束したっすもんね」


「……俺はサイカを雇うメリットをルーダに提示できないんだ。もし雇って欲しいなら、頑張ってくれ」


「メリットっすか!? ……えーっと、情報収集が得意とか?」


「金貨10枚で貴女を雇うより情報屋を使った方が安上がりです」


「護衛ができる?」


「ご主人様を害せるほどの人を止められますか?」


「無理っす……私は自分を雇うメリットも提示できないダメ人間っす! いや、まだ絶望するには早いっす!」


「おい、なんでこっちを見た」


 俺はクズだが、ダメ人間じゃねえぞ。

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