3.襲撃の顛末
「ダルトン。どこまで話をしたかな?」
「イスタールに戻った所までです。」
「そうか、では、その先は私が引き受けよう。君達が野盗を引き連れてイスタールに戻ったことで、一時、街は厳戒態勢に入ってね。私の店にも衛兵の伝令が飛んできたよ。当初、伝令からは「子息が野盗に襲われた。」としか伝え聞いていなかった為、アルルの元気な姿を見るまでは生きた心地がしなかった。」
「伝令を受けた私は、直ぐに馬車で東門に向かってね。しかし、城門に近づくと厳戒態勢に入っているから近づく事が出来なくてね。身分証を示して、被害者の関係者であることを伝えたが、だいぶ足止めを食らってしまったよ。やっと、城門に辿り着けたのは1つ鐘が過ぎた事だった。」
「衛兵詰所の待合室で、事情聴取を終えた君を抱えたダルトンとアルルと合流し、急ぎ馬車でここに戻ってきたのだ。車中で事の顛末を聞いたときは俄かに信じられなかったが、2人がワシに嘘をつく理由もない事から、直ぐに医者を呼んだのだ。息子と友人の恩人を蔑ろにするわけにはいかんからな。医者の見立てでは、特に外傷は無く、魔力枯渇による気絶であろうとの事じゃったが、中々目を覚まさないのでヤキモキしたよ。ここまでで何か質問はあるかな?」
「あ、あの野盗の人達はどうなりましたか。」
「今はまだ取り調べ中ではあるが、十中八九、公開処刑じゃろうな。国の乗合馬車に手を出したのだ。見せしめの為にも、また、対諸外国への面子の為にもそれ以外はありえんだろう。」
「・・・今まで細々と襲撃を行っていたのに、なぜ大胆にも乗合馬車を急に襲ったのでしょうか?リグラ村で聞いた人数と襲撃してきた人数にも大きな差異がありました。何故なのかわかりますか?」
「ふむ。これはワシの伝手で知り得た情報じゃが、口外するでないぞ。実は、そなた達がリグラ村に出立した日の夜に、衛兵所で牢破りがあったそうじゃ。その首謀者がそなた達を襲った野盗のリーダー格の男だったそうじゃ。
君達が、リグラ村で聞いた野盗達は、周辺農村の食い詰め者の集まりだったらしい。彼らは細々と襲撃を行って、路銀を貯めたら他国へ逃亡する予定だったみたいじゃが、それを牢破りした者達が根城ごと乗っ取り、元々の野盗のリーダーを殺害、方針転換をしたようじゃ。何故、方針転換をしたかは取り調べ中だが、国は牢破りの事実を揉み消す為にも、全員の処刑は必ず行うだろうな。」
「あ、あのリーダー格の男は・・・。」
「あー、その事か。安心しなさい。城壁に運び込まれた時、その者は生きておったよ。虫の息ではあったがな。護衛をしていた冒険者が、なんとしても死なせない様、最低限の応急処置とポーションを使ったようじゃ。「取り調べが面倒だから」との事のようじゃ。」
・・・
俺は、止まっていた匙を再度動かし、一口粥を啜る。
おそらく、俺が引け目を感じないようにするためだろうな。俺は覚悟をしていたが、普通の8歳児ならトラウマものだもんな。こりゃあ改めてテンペストの皆にはお礼をしないといけないな。
「他には良いかな?」
「はい、知りたいことは粗方知ることが出来ました。ありがとうございます。」
「そうか。では、本題に入らせて貰おう。」
え?これが本題じゃなかったの?他に何かあったか?
「さて、この事件がなければ、一昨日の夜は君達と会食をする予定であった。」
あ、そうだった!
「さすがに、あの状況で会食を進める訳にもいかんからな。主役も気を失っておったし・・・。なので、昨日、ダルトンとは改めて打合せをさせて貰った。その内容を手短に伝えようと思う。時間もないのでな。
本日正午に、予定通りリディア・イスタール閣下にお目通りする事となった。急ぎ準備をしよう!」
な、なんですと!
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