2.レイモンド
「どうぞ。」
ダルトンがノックに応える。
先程のメイドさんが静かに部屋に入ってくる。
「お食事をお持ちしました。また、当館の主が・・・」
「リノ!!!」
メイドさんの後ろからアルルが飛び出してきてベッドにダイブしてきた。
「リノ!リノ!大丈夫。2日も起きないから心配したよ!ぼ、僕、僕、お、お礼もい゛え゛て゛な゛い゛の゛・・・」
アルルが勢い込んで喋っていたが、最後は涙腺が崩壊して喋れなくなった。え?2日?
俺が驚愕の表情でダルトンを見る。ダルトンが苦笑しつつ告げた。
「正確には、君が気を失ってから1日半が経過しているよ。医者に診て貰って大事無い事は確認取れていたけど、それでも起きない間は心配したよ。」
魔力枯渇でそこまで気絶したのは初めてだ。極度のストレスが掛ったからだろうか。
「アルル坊ちゃん。そのようなお姿を衆目に曝しますとお父様に叱られますよ。それに、そのままですとリノ様がお食事を摂る事ができません。」
「・・・で、でも、つい嬉しくて・・・。」
「そうだぞ、アルル。商人は常に冷静沈着でなければならん。感情に左右されていては商機を逃すぞ。」
入口のドアの方からそのような声が聞こえてきた。そちらを見やると大柄な壮年の男性が立っていた。ガッシリとした体躯で、頭髪をオールバックで撫でつけ、カイゼル髭が似合う紳士だ。
「ち、父上!」
アルルが慌ててベッドから飛び降りる。
「失礼しても良いかな。・・・ありがとう。さて、自己紹介をさせて頂こう。レイモンド商会会長のレイモンドだ。初めまして小さな英雄君。」
「は、初めまして、リノと申します。この様な格好ですいません。それに、英雄なんかじゃないですよ。僕は。」
「ははは、ダルトンが言うように本当に聡明な子だね。・・・私とアルルからしてみれば、君は立派な英雄だ。アルルを助けてくれて本当にありがとう。この礼は必ずさせて貰うよ。」
そう言って、レイモンドが頭を下げた。アルルも慌てて横に並んで頭を下げる。
「あ、頭を上げてください。僕は、僕に出来ることをやっただけですので。・・・お礼なんて・・・。」
「いや、これはケジメでもあるからね。しかし、ダルトンやアルルの言葉を疑うわけでは無いが、本当に君のような小さな子が野党のリーダーを・・・。」
「ち、父上!何度も言ってるでは無いですか。目にも止まらない速さで野盗をぶっ飛ばしてくれたんだよ!リノ君は!」
「あ、ああ、そうだった。すまない。実際に目の前にしてみたらあまりにも幼い子だったのでな。・・・ああ、すまない。食事を取るんだったね。今、準備をさせよう。ただ、食べながらで良いのでそのまま話はさせて貰えないかな。ちょっと、時間も惜しいのでね。」
「あ、は、はい。」
「ありがとう。では、ルノア頼む。」
「畏まりました。」
ルノアと呼ばれたメイドさんが、小さな台を持ってきてベッドに座る俺の目の前にセッティングしていく。え?ここで食べるの。にゅ、入院患者みたいだ。台のセッティングが終わると、廊下からワゴンを押してきて俺の前の台に置いてくれた。
「2日程何も口にしておりませんので、まず消化の良いものをご用意しました。ごゆっくりとお召し上がりください。」
「あ、ありがとうございます。」
目の前には、深皿に入った麦粥が置かれていた。俺は「いただきます。」と呟いて、木匙で粥を掬って一口食べた。
う、うまっ!
孤児院で出ている薄粥でなく、卵をふんだんに使い、塩でいい塩梅に味付けをした絶品の麦粥だ。空腹も相まって、掬う匙が止まらない。
「お気に召して頂けたかな。お代りは十分にあるからドンドン食べてくれよ。」
レイモンドがそう声を掛けてきたが、すかさずルノアさんが、
「レイモンド様、リノ様は先程までも何も口にしておりませんでしたので、あまり急に大量に食事を取ってしまいますと、腹痛を起こしかねません。程ほどが宜しいかと・・・。」
「お前は相変わらずだな。・・・だそうだ。ゆっくりと食べるのが良いだろう。では、食べながらで良いので話をさせて貰おう。」
苦笑しながら、レイモンドが切り出すのであった。
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