EX.莉緒の夢 1
私は上中莉緒と言います。熊本県内のベンチャーIT企業で開発部部長をしています。部長と言ってもベンチャーなので部下は3人、私を含めた4人でヒィーヒィー言いながら日々の業務を行っています。
起業時は、夢と希望に向かってスタートアップメンバー一丸となり、時間も忘れてワイワイとサークルのノリで邁進していましたが、業績が軌道に乗り、社員を増やした辺りから雲行きが怪しくなってきました。
社長は売り上げが第一優先となり、無茶な工程の案件を取り始めました。もちろん仕事ですから色々な責任は伴います。いつまでもサークルのノリでは良くないというのは理解しますが、無茶な工程であれば、それだけ皆が無茶な業務をしなければなりません。連日の残業続きで部下たちは疲労困憊、今はまだ若さと、残業代が出せているので、給料によるモチベーションで持ち堪えていますが、ちょっとでも資金繰りのバランスが崩れたらブラック企業まっしぐらな状態になってしまいそうです。
「潮時かな・・・。」
自分の夢の為にと、大学時代の同期の起業を手伝う形でスタートアップメンバーに加わりましたが、段々と利益を追い求めはじめ、仲間や社員を蔑ろにしている現状は看過できません。
都度、社員の現状とキャパ以上の受注は身を滅ぼすと社長に提言してきましたが、あまり効果は無かったようです。
幸い、4~5年は働かなくても生きていける蓄えは出来ていますし、今手掛けている案件を終わらせたら、退職も視野にフェイドアウトしようかな。
徹夜明けの頭でそんな事を考えながら、3つのモニターと睨めっこし、指は忙しなくキーボード操作をしていると、デスクの上に置いていたプライベートスマホに通知音がきました。チラリとスマホ画面を見ると懐かしい人の名前がポップアップしていました。
忙しなく動かしていた指を止め、スマホを取り、メッセージアプリを立ち上げます。
『異世界行ってきたけど、質問ある?』
ゴンとデスクに頭を打ち付ける。久しぶりに送ってきたメッセージがこれですか。あの人は相変わらずです。気を取り直して仕事を再開しますが、しばらくすると、どうしてもさっきのメッセージが気になります。
先輩はふざけた所はありますが、基本嘘はつきません。その先輩が、わざわざSNSアプリを使ってメッセージを送ってくるという事は、あの内容は本当の事なのでしょうか。
そんな事を考えていたら仕事が段々と手に付かなくなってきました。スマホを取り先輩へ返信を送ります。
『どこかで頭打ちました?・・・ちなみにファンタジー系?ポストアポカリプス系?』
先輩の会社の始業時間を過ぎての返信だったので、返事は間が空くなと思いつつ、再度仕事を再開します。
スマホの鳴動を気にしつつ、仕事を進めますが昼を過ぎても返信がありません。からかわれた?
でも、半年ぶりに突然メッセージを送ってきて、からかう意図がわかりません。気になりすぎて何度かメッセージを送ると、14時位に突然、居酒屋のHPのURLと18:30集合のメッセージが返ってきました。
相変わらず唐突です。が、気になるのも確かです。
一気にキリの良いところまで仕事を進めて、部下に急用が出来たので早上がりをする事を伝えます。
「部長、もう3日も帰ってないのですからゆっくり休んでください。」
そんな優しい言葉を掛けられながら、自宅に急行し手早くシャワーを浴びて身支度を整えます。整えると言っても、量販店のTシャツとパンツしか持っていないので直ぐに準備は終わりますが。
恐らく先輩は実家に泊まるでしょうから、先輩のお母さんと妹の真由ちゃんに連絡をしておきます。私の何が気に入られたのか、この二人は何かと私を気に掛けてくれてありがたい存在です。
色々と準備をしていたら、少し待ち合わせ時間を過ぎてしまいました。反省です。
ですが、先輩は気にした素振りもなく先に生ビールを飲んでいました。いつも通りで安心です。
すみません。長くなってしまったので、中途半端ですが2話に分けます。
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