9.初魔法、そしてお出掛け
俺的、初魔法として何を使うか。今は、ベッドの中にいるので火と水は論外。土は、実際の土に作用するみたいなので、今は出来ない。光は、光源を出す魔法の様だが、今は昼間で、周りが明るいので分かりづらそうだ。そうすると、消去法的に風になる。
風の生活魔法は、濡れた物を乾かしたりするのに、便利な魔法だ。魔法呪文【微風】を唱えると、一定の魔力を使って風を起こす。
一定時間の間であれば、強弱を切り替える事が出来る便利さだ。竈の火を強くしたい時や、行水の後に髪の毛を乾かしたり、雨の日に、部屋干ししている洗濯物を乾かすのに便利だ。
髪の毛や洗濯物は、風とは別に【乾燥】という生活魔法もあるが、髪の毛を乾かす際の【乾燥】は、女性には不人気であった。
以前、【乾燥】の方が、【微風】より乾かすの早いよと、リノがソフィーに言った時に、髪がパサパサになって嫌だと言っていた。この記憶から想像すると、【乾燥】は物体の水分を抜き取る魔法の様だ。
話がそれた。今は初魔法だ。
では、使ってみよう。右手を前に突き出して魔法呪文を唱える。
【微風】
唱えると同時に、一定量の魔力が右手の掌に集まり、風が発現する。
おおー!本当に出た。リノの記憶で使った体感はあったが、実際使ってみると、やはり不思議な感覚だ。強弱の強は、丁度ドライヤーの強風ぐらいの強さだ。温風が出るわけでは無く、あくまでは周囲の温度と同程度、風で流されている分、体感では冷たく感じる。冬に、女性陣が暖炉の側で髪を乾かしていたのは、このせいのようだ。
弱は、本当にそよ風という感じで、使い所があまり無さそうな強さだ。いや、竈の火を強くしたい時に、この強さなら、灰を舞い上がらせなくて空気を送り込めそうだ。
強弱を切り替えながら、ステータスウィンドウを見る。保有魔力量は19から16に減っており、風の強弱を切り替えても、魔力量は変わっていない。風の生活魔法は、魔力を3消費して風を起こすようだ。強弱の切り替えに、魔力は必要としない。意外と高性能な魔法だ。
元々リノの保有魔力量は15だった。4回生活魔法を使うと、目眩がしていたので、保有魔力量が、残り3前後になると、目眩がしてくる事になる。
そして0になると気絶するということか。今は、魔力量が少ないので、簡単に魔法回数を数えられるが、将来魔力量が増えた時に、一々ステータスウィンドウを開いて確認するのは億劫だ。
そう思っていると、目の前に魔力量の数値が出てきた。しかも、邪魔になるので左上に移動出来ないか考えただけで、スーと移動する。あら、便利。
よしこれで魔法も確認できた。最後は称号だ。確認しようと、ウィンドウを開こうとしたところで、ドアがノックされ、外からシンシアの声が聞こえた。
『リノ具合はどう?これから買い物に行くけど出掛けられそう?』
慌ててウィンドウを閉じて答える。
「う、うん!大丈夫だよ!」
『そう?じゃあ玄関で待っているから準備してきてちょうだい。』
「わかった!すぐに行く!」
ゆっくりしていて、やっぱり体がツラいと思われても不味いので、すぐに起き出す。称号の確認はでき無さそうだな。準備といっても特に用意するものも無いので、そのまま部屋を出て玄関に向かう。
玄関に到着すると、シンシアが笑顔で迎えてくれた。体を気遣われながら玄関を出る。
玄関から、門に向かう途中で、庭で遊んでいた年少組の男の子がこちらに気付く。
トテトテと走って来て声を掛けてきた。
「シンシア、リノどこいくの?」
「あら、ライト。これから買い物に出るところよ。」
「いいなぁ。ぼくもいきたい。」
「うーん。ライトにはまだちょっと早いかなぁ。もう少し大きくなったら一緒に行きましょうね。」
「えぇー。リノだけズルい。いきたい、いきたい。」
「困ったわねー。」
と、シンシアがどう嗜めるか思案していると
「おい!ガキ!俺の手、煩わせんじゃねぇよ!」
と、大きな声が聞こえてきた。ライトの体がビクンと跳ねる。
声がした方を見ると男の職員、トーマスがドスドスと肩をいからせながら歩いたきた。
「トーマスさん!小さな子供にそんな言い方しないで下さい。」
「五月蝿せえな。ガキなんてのは脅しつけて大人しくさせときゃいいんだよ。そうすりゃ、楽して金だけ貰えるんだからよ。」
「そうではありません!子供は、伸び伸びと自由に育むべきです。かの創始・・・」
「はいはい、ご高説は聞き飽きたよ。サッサと買い物でも何でも行ってこいよ。オラ!ガキ!テメェはこっちだ。」
「あ、まだ、終わってませんよ!あー、行ってしまいました。」
リノの中の、俺が、唖然とする。リノの記憶で、この孤児院の職員の質の悪さは知っていたが、目の当たりにすると、それが如実にわかる。この世界は、こんな大人ばかりなのだろうか。だが、シンシアみたいな子もいる。
生き抜く為には、人を見極めて、少しでも多くの味方を見つける事が大切なようだ。
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