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夢だと思っていたら現実だった件 ~死にたくないのでソウゾウリョクを駆使して全力で抗います~  作者: 神子島 航希
第2章 動き始める日常

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38.観光

 魔力感知の実験を終えた俺と莉緒は、車で栗野岳に登った。


 栗野岳は、霧島連峰の西端にある標高1102mの活火山だ。温泉や地熱発電所があり、レジャー施設として美術館、キャンプ場、アスレチックがある。馬の放牧もしており、乗馬体験もできる。


「なんで、山の上に美術館を作ったんでしょうね。」


「知らん。昔の箱物行政の遺物じゃないか?ただ、この自然と一体の作品は、今の映え文化とマッチするんじゃないか?」


「確かに、ちょっと有名なインフルエンサーとコラボすれば、バズりそうなシチュではありますね。なんでやらないんでしょ?」


「田舎だからな。若者が新しい事を提案しても、変化を嫌う年寄りが反対するんだろ。現状維持で良いと思っているんだろうが、人口は着実に減少していっている。現状維持は緩やかな衰退だよ。」


「良い所なのに寂しいですね。」


「行政に期待できなければ民間だろうな。直紀から聞いたが、大手の材木加工会社が乗り込んできたらしいからな。良いカンフル剤になればいいけどな。」


 1時間程、美術館を回って次に展望台に向かった。展望台から町を一望できるのだが、10年前から変わらない風景がそこにあった。


 中学卒業と同時にこの地を離れたが、小さい頃過ごした故郷が少しづつ廃れていくのは、なんとも言えない物悲しさがある。


 そんな感傷に浸っていると、莉緒が明るい声で声を掛けてきた。


「先輩!あっちで乗馬体験が出来るみたいですよ。乗ってみたいです!」


 意外にこの子は人の機微に敏感だ。俺が感傷に浸っているのを察して、ワザと明るい声を出したのだろう。


 俺は苦笑しながら、


「1人で乗れるか?小学生にはポニーも用意してあるみたいだぞ。」


「はっ!言ってろってんです。簡単に御してみせますよ!」


 そう勇んで、乗馬体験エリアへと向かった莉緒だったが、サラブレッドのデカさに若干引き気味だ。乗馬する場所は台があって、簡単に馬に跨る様になっているのだが、腰が引けている莉緒は中々跨ぐ事が出来ない。


「せ、せんぱーい!」


 情け無い声を出す後輩を見兼ねて、俺は莉緒の脇を持ち上げ、馬に跨らせる。


「ひ、ひぃー!た、高い。」


 そう、意外と馬の背に乗ると、目線が高くなって高い所が苦手な人は恐怖を感じたりする。莉緒もビビってしまい、馬の首に抱きついてしまっている。


「おーい!ちゃんと背筋伸ばさないと、馬が嫌がって暴れるぞー!」


「ひ、ひぃー!」


 顔を青ざめさせて、今度はビシッと背筋を伸ばして手綱を握っている。エリアを一周して帰ってくる頃には大分慣れたのか、顔は若干引き攣っているものの笑顔が見えていた。


「ふ、ふん、今日はこのくらいで許してやるのです。」


「どこから目線なんだ、それは。」


「馬に乗るのって大変なんですね。高いし結構揺れるし。」


「コツと筋力が必要だな。」


「その言い方だと、乗れるんですか?」


「まぁ、昔、師匠に仕込まれたな。星陰流は武芸百般だって言われて。流鏑馬までやらされた。」


「・・・先輩達はどこの戦場にいるですか?」


「常在戦場だ!が、昔の師匠の口癖だったからな。」


「今からは想像出来ないですね。あ、でも先輩達を止めた時は確かにピリッとしました。」


「今でも試合って勝てるか分からないからな。持久戦に持っていけば体力的に勝てるだろうが、読み合いで勝てる気がしない。動きが洗練され過ぎていて機先が読めないだよ。」


「きせん?」


「あー、動きを察知する事だ。起こりとも言うかな。人は動こうとすると、筋肉が収縮するだろ?それを察知して先に仕掛けるか、カウンターを狙うかを読み合うんだけど、師匠はその起こりが読めないんだ。気が付いたら懐に入られてるとかザラだぜ。」


「そ、そんな凄い人だったんですね。唯の酒呑み、いえ、好々爺かと思っていました。」


「こっちのジジイ共は大抵酒呑みだから気にするな。じゃ、そろそろ昼にするか。」


 こうして、栗野岳を後にした俺達は竹中池に向かった。


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