35.遅い朝食
朝食をご馳走になった後、莉緒を起こしに再び宿泊室に向かい、ドアをノックするが出てくる気配が無い。仕方が無いので、昨日の夜起こった事をメモしたメッセージを送ってみる。
数瞬間後、部屋の中からガタゴトという音が鳴り、勢いよくドアが開かれる。
「やっぱ、起きてたじゃねぇか。」
「そんな事より、なんですか!魔力感知って!なんでそんな面白そうな事、1人でやってるんですか!詳しく!!」
「ダメだ。ちゃんと準備して、おばさん達に挨拶してからだ。丸池に行く途中で話てやる。」
「そんなー。」
「ほら、早く準備しろ。おばさんがサンドイッチ用意してくれてるぞ。俺は上で待ってるからな。」
そう言って、まだブツブツ言っている莉緒を置いて、もう一度、師匠宅に戻った。
「すいません。今、起きました。そろそろ上がって来ると思います。」
「じゃあ、サンドイッチはここに置いて置こうかね。私は洗濯物干して来るから、真紀、後はお願いね。」
「りょーかい。」
「そう言えば祐希。あん子が使った動画見たぞ。凄か技術やね。映画みたいやった。」
「ほんと。ウチのHPへのアクセスが凄い回数になってるの。」
「ああいう才能は凄いですよね。他がからっきしですが・・・。」
「褒めても何も出ませんよ。・・・あ、お、おはようござます。」
「褒めてねぇよ。あと、挨拶を噛むな。」
「おはようさん。いや、一芸に秀でる事は凄かこっちゃぞ。誇ってよか!」
「おはよう。うんうん。本当に映画みたいでしたもん。そういう仕事してるの?今からでも報酬払いますよ。」
「IT系ではありますけど、映像が専門では無いです。趣味の範疇なので報酬はいりませんよ。」
「ウチは助かるけど・・・。あ、これ良かったら食べて。」
「ありがとうございます。」
ようやく起きてきた莉緒が、真紀から手渡された朝食を食べ終わるのを待つ。
「丸池に行っとね。アソコ何もなかど。」
「水底まで透き通ってるんですよね。一度見て見たいんです。」
「モノ好っじゃねぇ。」
師匠が苦笑しながら、手元で何かを削っている。
「師匠、何を作っているんですか?」
「ああ、こいか?こいは仕事もやめっせい暇やっで「ふぃぎゅあ」作ろうと思っせね。子供達にせがまれて作っちょっと。」
「「フィギュア?」」
「おう。昨日、出来たのがそこにあっど。」
そう言って、師匠がリビングの壁際にある作り付けの棚を指す。そこには、直紀の娘の七海ちゃんの写真が幾つも飾ってあるのだが、そこに一体、とても精巧なガンプラが飾ってあった。
いや、着色していないから素地のままなのだが、プラスチックでは無い木目が見えるので、ガンプラでは無いか。え?これ掘ったの?どう見ても市販のガンプラなんだけど・・・
「エア◯アル・・・」
莉緒が何か呟いた。詳しく聞いてみると、数年前のガン◯ムの機体らしい。
「こん「びっと」ちゅうんが、細こうて面倒だった。」
「え?これって着脱可能なんですか?」
「子供達のリクエストやっでね。もう一体作ったら色をつけっと。」
「お父さんのフィギュア子供達に大人気で、今度の選抜戦の小学生の部と、中学生の部の選抜者で異種武器戦をして、優勝者に賞品として渡す事になってるの。」
「ほ、欲しい。・・・真紀さん交渉です。先程は動画の報酬は要らないと言ったのですが、これをもう一体作って頂けませんか?」
「だって、お父さん。出来る?」
「まあ、暇やっで出来んこちはなかど、直ぐは無理やっど。」
「時間は幾ら掛かっても構いません!ありがとうございます!」
「お安い御用じゃ。あん動画と、こんジジイの手慰みモンが釣り合うとは到底思えん。幾らても作っちゃる。」
その言葉を聞いて莉緒の目が$マークになったのを見逃さない。
「おい、ネットオークションとか出すんじゃねぇぞ。版権とかやべぇからな。揉め事はごめんだ。真紀も子供達に良く言っててくれよ。」
苦笑する真紀と、明らかに落ち込む莉緒。油断も隙もない。
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