28.剣術を続ける意味
「そや、あん背車刀の後、お前はなんで突いてこんかったとう?あそこで薙ぎ払いじゃ無くて、突きやったら決着はついとったどが。」
「・・・」
「急に、稽古させっくれって連絡があったとのも、珍しいかもんね。なんかあったとか?」
「・・・例えば俺が人を斬り殺したって言ったらどうする?」
「やっぱいそうか!よし!警察行っど!」
「だから、例えば!だ。」
「うーん、お前が一線を超えるつーことは、よっぽどの事だろ?法は法やっで、それに従うちもらうが、最後まで信じっど。言わすんな。恥ずかしい。」
「・・・ありがとう。」
「ん?なんか言ったか?つーか、お前はそんな事しない。社会が許せばすっかも知れんど、今はそれは許されん。親父がよう言っていたどが。「剣は凶器。剣術は殺人術。昔はそいが許された。でも、今は許されん。では、何故、剣術を続けるか。社会通念は時代時代で変わる。今は忌避さる事でも、将来、また必要になる事があるかもしれん。そん時の為に腕を磨け。」って。お前が一線を超えるちゅうことは、必要やからやろ。」
ストンと心に直紀の言葉が落ちた。そうだ。俺はあの時アルルが危険だと思い、大男を斬った。向こうの社会通念的にも許されるという言い訳はあったかも知れないが、感情に任せた凶行では無い。
今後も、ソフィーやシンシア、ダルトンに危険が及べば、俺は剣を振るうだろう。
こちらでも家族や莉緒、星野家に危険が迫れば俺は剣を振るうと思う。
確率の問題なのだ。向こうの世界の方がこちらの世界より危険度が高いから、剣を振るう機会が多い。
要は気の持ちようだ。俺は、俺が大切だと思う人々の為に剣を振るう。それだけは絶対に踏み外す事の無い決意だ。
「そうだな。うん、そうだ!」
そう叫んで、俺はもう一度水を頭から被った。頭から滴る水と一緒に目からも一滴滴が落ちた。
「なんよ、急に。変な奴やねー。」
すっかり汗も引いたので、道着を着直して道場に戻る。子供達が話しかけたそうにしているが、師匠と真紀に釘を刺されているのか、表面上は真面目に練習をしている。下級生は練習にならなくなったのか、すでに居なくなっていた。
保護者の皆さんもカフェに移動しているようで、道場にはいない。莉緒もカフェに移動したみたいで道場にいない。動画編集でもしているのかもしれない。
「師匠、ご無沙汰しております。先程はご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした。」
「お、久しぶいやねぇ。全然顔も見せんじぃ。元気やったか?お前達は、相変わらず戦いだすと周りが見えなくなる。気い付けぇ。」
「はい、肝に命じます。」
「うん。ほいなら子供達を見てくれるかい?オイが見っと、すぐ怒ってしまうから。」
と、苦笑する師匠。昔から師匠は、普段は優しいのだが、剣術の事になると妥協をしないので、指導に熱が入ってしまい、子供達からは怖がられているのだろう。
俺も本当に厳しい指導を受けてきた。思い出すだけで目から汗が滴り落ちてくる。
俺も師匠に苦笑いを返して、一礼して子供達の指導に向かった。小学生高学年と中学生では、体格が違いすぎるので分けて指導しているようだ。直紀が中学生の方を見ているので、俺は小学生の集団に向かう。
低学年は変な癖が付かない様に小太刀のみで練習していて、本当に振り回しているだけのチャンバラだったが、高学年になると少し様になっている。
また、高学年になると色々な武器を使用出来る様だ。今は相掛かり稽古で、他武器種の相手と順番に組み打ちをしている。
一組づつ見ていくと、小太刀二刀流対槍という面白い組み合わせに出会った。暫く観察していると、小太刀二刀流君の動きは悪く無いのだが、槍の間合いの中に入れず、攻めあぐねている。
良く見ると、振り下ろされる槍が怖くて目を瞑っているようだ。少しアドバイスしてあげよう。
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