27.地稽古の結果
「「は、背車刀!?」」
莉緒と真紀が同時に呟いた。
「まぁた、器用な真似をすっが。」
「お前も相変わらずの馬鹿力やね。」
「鈍っていないようでで良かった。ギア上げていっど。」
そう言うと、直紀は先程とはうって変わって、果敢に攻めてきた。唐竹割りからの逆袈裟、袈裟斬りと見せ掛けた突きと、怒涛の如く攻めてくる。それを俺は躱し、弾き、突き返して攻撃を防ぐ。
段々と上がっていく直紀のスピードに呼応する様に、俺のスピードも上がっていく。そして、テンションも・・・
「「ふは、はは、ふはははは!!」」
どちらとも無く笑い出し、それに合わせて手数も増えいく。
ーーー said 莉緒 ーーー
「あ、あの、真紀さん、これって、だ、大丈夫なんですか?なんか段々2人とも目が座ってきてますよ。」
「・・・今のは、先輩、旋風を狙った?でも、兄貴が突きを出してきたから、袈裟斬りではたいた。・・・馬鹿兄貴。先輩の勇姿の邪魔するな・・・ブツブツ。」
「ダメだ。自分の世界に入ってる。・・・周りも圧倒されて呆けちゃってる。コレ、ホント大丈夫なの?」
私が、アワアワと慌ていると後ろから声がした。
「しょうがなかねー、悪ガキどもが・・・」
ーーー said 祐希 ーーー
お互いの袈裟斬りが正面でぶつかり、木刀が弾ける。ここだと直感し、逆袈裟に切り上げると共に猿叫を上げた。
「「きぇーーーー!!」」
折しも、直紀も勝負所と直感し、猿叫から唐竹割りを繰り出してきた。
「やめんかーーー!!!」
絶叫と共に、俺の剣が直紀の首に、直紀の剣が俺の脳天に当たる寸前で止まる。
「親父・・・」
「師匠・・・」
「邪魔すんな、親父。今、良い所だったんだ。」
「馬鹿タレが!周りを見んか!子供達が、怖がっている。頭冷やせ!」
周りを見ると、子供達や保護者、莉緒が呆けていた。真紀は1人「キャーキャー」と騒いでいる。
「裏ん、湧水で頭を冷やしてけ。・・・真紀ー!いつまで騒いじょっか!子供達のケアをせんか!」
俺と直紀は、師匠から手拭いを受け取り、そそくさと道場の裏口から外に出ようとした。すると、
「「「「「うわぁーーーー!」」」」」
後ろから、もの凄い歓声が聞こえた。お互い振り向くと、子供達が口々に「スゲー、スゲー」と連呼している。
保護者の皆さんも、「直紀先生、いつも奥さんや真紀先生に尻に敷かれてるのに凄いのね。」や「あのお相手は誰?真紀先生の良い人?」と囃し立てている。
今度は、俺と直紀が呆けていると、
「コラッ!はよ行かんか。収集がつかん。」
と、また師匠に怒られた。今度こそ、そそくさと裏口から道場を出た。
裏庭に行くと、エンビ管から水が垂れ流しになった三和土の流しがあり、桶に水が溜められていた。
上の道着をはだけさせて、上半身裸になると溜めてある水を手桶で掬い頭からかぶる。熱った体を冷やしてくれて気持ちいい。
暫く2人で水をかぶり、手拭いで体を拭いて一息ついた。
「これでオイの479勝目やね。」
「はぁ?そいはオイやっが。」
「オイの剣がお前の頭をカチ割っちょったが。」
「はぁ?オイ剣はあそこから加速すっど。止められなければ、お前の首は吹っ飛んじょったぞ。」
「「はぁ!?」」
「やっとか!」
「ワイがうな!」
暫く2人で睨み合う。
「「・・・ブッ!はははっ!」」
そして、同時に吹き出した。
「このやり取りも久しぶりやね。」
「相変わらずの馬鹿力でまだ手がビリビリすっが。」
「お前も相変わらず奇抜な事ばっかしっせぇ、精神がもたん。ホントに鈍っていなかったねー。あっちに行ってからも振っちゃったとか?」
「まあな。」
嘘だ。本当は大学に入ってからは、ほとんど剣を握っていなかった。熊本に戻ってきて、体の事を考えて週に2度は素振りをするようになったが、毎日剣を振っている直紀と、ここまで張り合えるまでには感覚を取り戻してるとは思えていなかった。そう先週の日曜までは・・・.。
直紀と互角にやり合えたのは、確実に剣術スキルのお陰だ。
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