24.星陰流道場
俺の記憶にある道場は、明治の頃からある宗屋根の日本家屋だった。道場主も今のご時世で、剣術を習う人間が減っているので、自分の代では門下生は取らないと言っていた。当主は農協の職員、直紀も自営農業をしている。ワンチャン、農地を売って建て替えた可能性もあるが、道場を大きくする理由が分からない。
「よし、直紀。警察いっど。自首すれば少しは刑も軽くなる。」
「なんでよ!」
「なんか悪い事したどが。ワイがこげんビル建てられるは思えん。はよ行っど。」
「コイ建てたはオイじゃなかど。真紀が建てたとよ。」
「真紀ちゃんが?」
「あ、あのー・・・」
「「ん?」」「どうした莉緒?」
「に、日本語で話して貰って良いですか?」
「「日本語だよ(じゃが)!」」
「ヒィー!」
「ん?そう言えばこの小さい子は誰ね?ま、まさか、誘拐か!祐希が警察行った方が良かど!」
「ちげーが。大学の後輩だ。ココを見てみたいって付いてきたと。」
「初めまして。上中莉緒です。先輩がいつもお世話になってます。」
「これはご丁寧に。星野直紀です。祐希がお世話になっています。ふーん、祐希、彼女か!」
「ち、違っ・・・」
「ちげーって。唯の後輩だよ。」
「ぶー。」
直紀が俺と莉緒を見比べている。
「くくく、祐希は相変わらずやねー。でも莉緒ちゃんを見たら真紀が発狂せんかね。くわばらくわばら。
あー、こげん所ですまん。ウチに入らんね。」
直紀が俺達2人をビルの中に案内してくれた。ビルの入口は自動ドアになっており、中に入ると大きな玄関ロビーになっていた。右手に靴棚が有り、左手にはカフェの様な空間があった。
「そこに靴を置いてスリッパに履き替えくんやい。とりあえず、そこでコーヒーでも飲んが。」
カフェに入ると、正面はガラス張りになっており、ガラスの向こう側はテラスになっている。あちらでもお茶が楽しめそうだ。入って右手もガラス張りになっているが、こちらは外では無く奥の部屋に臨んでいる。
「ど、道場?」
「あぁ、道場は道場でも、チャ・・・」
「ゆ、祐希先輩!?」
カウンターの方から大声で呼びかけられる。そちらを見ると、エプロンをした黒髪ポニーテールの細身の女性が立っていた。
「おぉ、真紀ちゃん久しぶり。何年ぶりけ?」
「3年半ぶりです!こっちに来るなら連絡下さいよ!」
「直紀には連絡してたんだけどな。知ってるとばっかり思ってたよ。」
「バカ兄貴!どうせサプライズとか何とか思ってたんでしょ。もう、準備とか色々あるのにー!」
「せーかい。しししっ。」
「◯ね!それで今日は何でこっちに?あと、其方さんは?はっ、まさか!結婚報告・・・。」
「ははは。違うって。久しぶりに直紀と手合わせしたくなってね。こちらは莉緒。大学の後輩だ。」
「上中莉緒です。先輩がお世話になっています。」
「星野真紀です。ウチの祐希先輩がお世話になっています。」
「ねぇ、何で皆、俺が世話になってる前提の挨拶するの?俺が世話してる事だってあるじゃん。」
「・・・先輩、相変わらずですね。安心しました。莉緒さん、暫くは休戦という事にしませんか?まずは本人の意識を変えないといけないと思います。」
「・・・はい、そこまでの関係ですらありませんがので異論はありません。」
「お互い面倒な人を・・・。あ、お二人ともこちらへ。・・・何で兄貴も座ってるのよ。」
「オイもコーヒーを飲もうち思って。」
「もう!もう直ぐ子供達が来るんだから準備してよ。」
「げ、もうそんな時間け。祐希わりー。事情は真紀に聞っくんやい。」
そう言って、直紀は慌ててカフェを出て行った。
「アイツも相変わらずやね。で、直紀がこのビルは真紀ちゃんが建てたって、言っていたけど本当?」
「え、えぇ。もちろんローンはまだありますけど、頭金は殆ど私が出しました。兄貴もローンは払ってますけど。」
真紀が苦笑いしながら事情を話してくれた。
「祐希先輩はスポーツチャンバラって知ってますか?スポンジの剣で戦うあれです。私、星陰流がこのまま廃れて無くなるのが嫌で、何か残せる方法がないか探している時に、スポチャンの動画を見たんです。」
「これで少しでも星陰流を知って貰えないかなと思って、兄貴との地稽古を動画で配信したんです。そうしたら、その動画があるインフルエンサーの目に止まって、あれよあれよとバズりまして、問い合わせが殺到したんです。」
「未就学児、小学生や中学生の入門者の他に、ストレス発散にと大人の入門者も増えまして、隣の保育園からも入門している子の礼儀が良くなったと好評で、週に1度のレクリエーションも受託出来て、順調に売り上げが伸びて・・・。で、今度は元の道場では手狭になったので、思い切って建て替える事にしたんです。」
SNSすげぇ。
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