7.孤児院院長
あれよあれよという間に、ベッドに寝かされた俺は、次にどうやって抜け出すかを思案していた。
子供達は、男の子は土木現場、女の子は、何処か大きな家の家事手伝いに出掛け、仕事に出られない小さな子供達は、庭で遊んだり、シンシアや他の職員の手伝いをしたりしている。
こっそり抜け出すにしても、誰かに見咎められたらズル休みが疑われて、直ぐにも土木作業に送り出されかねない。なかなか抜け出す算段がつかないまま、時間を浪費していると、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。
『院長、リノはもう少し安静にしていないと・・・』
『私はただアンタや子供達の報告が正しいか、本人にも確認するだけだよ。それとも本人に聞かれて困る事でもあるのかい?』
『そんな事は無いですけど、何も今日じゃなくてもいいではないですか。明日もあるのですし・・・』
『こういうのは早ければ早いほうがいいんだよ。「リノ!」』
そう叫びながらドアが思いっきり開いた。開いた瞬間、体がビクッと跳ねる。ん?体が強張ってる?
入ってきたのはシワがれた老婆だった。一見ニコニコと目尻を下げて優しそうに見えるが、外の喧騒や名前を呼ばれた時の声音が表情と一致しない。彼女はバーバラ、この孤児院の院長だ。
「アンタ、昨日ダンカンところ若造にやられたんだって?詳しく話な!」
入ってくるなりワンワンと捲し立てられ
「うわ、えっと・・・、その・・・」
混乱して、シドロモドロになっていると
「サッサとおし!」
と、急かしてくる。
どうにか昨日の出来事を順を追って話す。
「ふーん。コッチに非が無いわけでは無いのかい。でもやりすぎだね。見ていた子供達の証言とも一致する。こりゃ搾るだけ搾り取ってやるかね。」
何か不穏な事を呟いている。
「まぁ状況は分かった。アンタは動けるようになったら、また仕事に戻んな。ここに、無駄飯食らいを置いとく余裕は無いよ!」
「い、院長ー!子供にそういう事を言わないで下さい!」
「なんだい!ホント事だろ。ここの経営はいつもギリギリなんだよ。それともアンタが娼館で稼いでくるかい?わたしゃ一向に構わないよ。ケケケ。」
「い、行きません!そ、そういう事も子供の前で言わないで下さい。」
顔を赤らめて反論するシンシア。
「初心だねぇ。とにかくリノは早く復帰しな。いいね!」
こくんと頷く。それを見たバーバラはフンと鼻を鳴らして出て行った。
「院長はあんな事言ってるけど、リノは怪我してるんだから、ゆっくり休んでね。」
と、言って俺の頭を一撫でして、部屋を出ていこうとするシンシア。
「ま、待ってシンシアお姉ちゃん!」
俺に呼び止められて、振り返ったシンシアに、俺は告げた。
「ぼ、僕、少しでもお手伝いする。ちょ、ちょっとでも役に立てるように頑張るから!」
「いいのよ。無理しなくて。今日はゆっくりや・・・」
「ううん!手伝う!シンシアお姉ちゃんの役に立つ!買い物行く時に荷物持つよ。」
「・・・あらあら。嬉しいわね。じゃあ、お昼過ぎになって、痛みとか無かったら、お願いしようかな?」
「うん!僕、頑張るね。」
「ほら、今は少しでも休みなさい。じゃあ、後で声を掛けに来るから、無理そうならその時に言うのよ。」
そう言い残し、シンシアは今度こそ部屋から出て行った。
ふぅ、どうにか街に出る算段は付けられた。街に出た後は、また出たとこ勝負になるが、動かない事には何も始まらないからな。
思いがけず時間ができてしまった。こうなれば昨日、強制的に中断されたステータス確認をしよう!
そう思い、ステータスウィンドウを開き、俺は困惑するのであった。
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