10.帰宅
「あら、ちょっと話し込んじゃたわね。邪魔してごめんね。」
「いえ、良い気分転換になりました。それに、後は全体を見直せば終わりだったので直ぐに終わります。」
「そうなの?なら私も終わるし、ちょっと飲んで帰る?」
「すいません。昨日も飲んで実家に泊まったので、今日は車で帰らないとなんです。」
「あら、残念。愚痴でも聞いて貰おう思ったのに。彼女?」
「彼女なんていませんよ。家庭菜園してるんですけど、流石に2日も水遣りしなかったら不味いので。」
「・・・そ、そう。それは帰らないといけないわね。なら今度、足立被害者の会でも開きましょうか。」
「あ、良いですね。皆で愚痴を言い合って憂さ晴らししましょう。」
「じゃあ、続きをしちゃうわ。運転気をつけてね。」
「ありがとうございます。」
立花さんが自席に戻るのを見送り、作業の続きを始める。と、いっても、先程言ったように最終確認だけなので10分もすれば終わる。
変な不具合が無い事を確認して、施工者にメールで図面データを送る。デスクの上の資料を片付けて帰り支度を済ませ、立花さんに声を掛けて事務所を出た。
電車に乗って気が付いたが、立花さんを送った方が良かったか。真由の「お兄!そう言うとこがモテないんだぞ!」と声が聞こえてきそうだが、今更である。
実家に帰り着き、母親に一声掛けて冷蔵庫からタッパーを取る。混ぜご飯と煮物のようだ。ありがたい。
母親に礼を言い、自宅へと車を走らせる。段々と街灯が少なくなり、暗くなる幹線道路を愛車のシエンタで走りながら、今日立花さんが言っていた事を思い出す。
『私は別の意味で苦手。直ぐ飲みに行こうって誘ってくるし、理由を付けて触ってこようとするし。女子社員、皆嫌がってるわ。』
足立のセクハラ。立花さんは苦手で済ませていたが、これが明るみに出れば、流石に足立も終わりだろう。それと同時に会社もダメージを受ける。立花さんはそれを懸念していた。
ふと、この事を課長は把握しているのか気になった。
あの人なら把握しているだろうなと漠然と感じた。把握していて放置するだろうか。会社へのリスクと天秤に掛けて放置している?
いやいや、そんな人では無い。何か対策しようとしているか?状況も分からず、しゃしゃり出て邪魔をするのは不味いか。
そんな事を考えながら運転をしていたら、自宅へと帰り着いた。とりあえず明日、立花さんに「何かあれば協力します。」とメールしておこう。
車から降りて、家庭菜園を確認に行く。特に変わりはなさそうなので、軽く水遣りをして、熟したミニトマトときゅうりを収穫して家に入る。
もう遅いのでシャワーだけ浴びて、貰ってきた煮物をレンチンする。混ぜご飯は冷蔵庫へ。明日の朝食用だ。
待っている間に、きゅうりを洗って乱切りにして、ビニール袋に塩昆布と一緒に入れて揉み込み、小皿に盛る。お手軽おつまみの完成だ。ミニトマトは洗ってそのまま盛る。
冷蔵庫から糖質ゼロのビールを取り出し、晩御飯と共にリビングのテーブルに準備する。
ニュース番組を見つつ、チビチビと晩酌しながらツマミに煮物とツマミを食べる。
一通り、今日のニュースを見終えたら丁度ビールも無くなったので、片付けをして寝る事にする。
ベッドに入って魔力循環を確認する。昨日より大分スムーズに流れるようになっている。後2日も続ければ、イスタールにいた時くらいのスピードで循環できそうだ。
そう言えば、もうイスタールには行けないのだろうか。不便だし危険な世界だが、まだ何処にも行けていない。生活改善計画も中途半端だし、俺の意識が無かったらリノはどうなるんだ?
もし、定期的に行き来できるとすればどの位の間隔なんだろう。俺の記憶では6日間向こうに居たと思う。そうすると、6日=7時間なのか?
土曜の夜にまた向こう行くのだろうか?
この辺りも莉緒と情報共有しておこう。
今、疑問に思った事をスマホにメモして莉緒に送る。
時計を見ると良い時間になっていたので、魔紋に魔力を流して意識を手放した。
おやすみなさい。
お読みいただきありがとうございます。評価・ブックマーク頂けると嬉しいです。




