6.生活環境改善プラン
さて、食事の改善をする為に必要な事はなんだろうか。栄養のある食材、それらを使った料理を作るためのスタッフ、調味料etc、と挙げればキリがないが、それら全部を用意するお金がまずは必要である。
どのくらいの予算があれば、腹一杯栄養のあるものを食べられるのか、リノの記憶では分からない。この世界の物やお金の価値がまだ分からないからだ。
リノ達が一日中、力仕事、土木現場の手伝いをして貰っているのが銀貨1枚、100ダリ。それを院に渡してお小遣いとして10ダリ銅貨1枚貰える。
リノの記憶で買い物した事があるのは、土木作業の帰りの買い食いくらいだ。屋台の串焼きがあまりにも美味しそうで、我慢できず買ったのだが、串焼き1本が50ダリだった。
子供の土木作業の駄賃の半分の値段の串焼き。駄賃が極端に安いのか、物価が高いのか。これだけでは物の価値は分からない。
串焼きに使われていた食材や調味料が、広く一般的に使われている物なのか、客寄せの為に珍しい物を使っているのか、そもそも串焼き1本が50ダリが妥当な値段なのかすら分からないのだ。
一緒に買食いをした、年上の子供達が何も言わず買っていたので、そんなぼったくりな値段とは思えないが、子供達全員がカモにされているのかすら分からない。
しかもこのエピソードは、嫌な記憶としてリノの中に残っている。串焼き1本でだいぶお腹は満たされたが、院に帰ってきた後、まだ土木作業が出来ない小さな子や、別の仕事を割り振られていた、女の子達のお腹の空かせた顔を見て、後ろめたくなって罪悪感が生まれたのだ。
俺は、力仕事で得た報酬で買ったのだし、その時食べていないと、体がもたなかった気がするので仕方の無い事だと思うのだが、リノは違ったらしい。それ以来、他の子が買い食いをしていても、リノは我慢をして決して買う事をしなかった。
優しくて我慢強い子だが、その為に力が出なくて、あんな事になったと思うとやるせなくなる。
とにかく、今までのように土木作業の手伝いをしていても、現状は変わらないという事だけは分かった。
では何をするかだが、やはり自分で稼ぎだす事だろう。商取引だ。
幸い、今のリノ、俺には地球の知識がある。この世界で現在利用価値が低いと思われている物でも、本当の利用価値を広めれば、売る事ができる。広める前に、ちょっと多めに仕入れておけば、その差額で儲ける事が出来るだろう。
だが、いきなり商売を始めようとしても、この世界の勝手が分からないし、資金が圧倒的に足りない。まずは、商売をしている人と縁を作り、出来ればそこで働かせて貰って、知識と資金を得る事が先決だろう。
その為には、少なくとも今日、出来れば明日も、土木作業を休んで自由に動ける時間が欲しい。
昨日、殴られた事を理由に休みをもらうか?実際は、何故か殆ど怪我をしていないから、ズル休みになるのだが、あの場に居合わせた子供達は、暴行現場を目撃しているので、ズル休みとは思わないだろう。
ここは先の利益の為に心を鬼にして、休もう。
そうと決まれば、
「う、うぐっ・・・」
お腹を押さえながらうずくまる。
「リ、リノ?大丈夫?」
隣のソフィーがすぐに声を掛けてくる。
「う、うん」
と、弱々しく答える。
「やっぱりお前、無理してたんだろ。あんなに殴られたのに平気なはずがないんだ。」
カイトが心配して大きな声で近づいてくる。
みんなも続々と集まってきて心配の声をかけてくれる。うぁー、心が痛い。
シンシアも心配して、
「リノ、無理をしないで今日はお休みした方がいいわ。私から院長には伝えておくから。」
みんなが優しいすぎて、胃がキリキリするー!
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