5.孤児院の生活環境
「おい、リノ!そろそろ起きないと朝飯抜きになるぞ!」
そんな声で覚醒する。
パッと目を開け、目に飛び込んできたステータスウィンドウにビックリする。
慌ててウィンドウを消して、声の主の方を見やるが、彼は心配そうに俺の頬に目をやり
「腫れはだいぶ引いたみたいだな。お前、あれだけ殴られて良く平気だったよな。俺、お前がグッタリした時は死んだかと思ったぜ。」
と、頭をガシガシと撫でてから
「ヤベっ!うかうかしてると本当に朝飯抜きになるぞ!」
と、言いながら部屋から飛び出して行った。
彼はカイト。リノと同部屋の男の子だ。年は、リノよりも4つほど上のはずだ。赤髪でキリッとした眉毛が印象的だ。
院の子供達の中では年長者で、率先してみんなを引っ張ってくれる活発な子だ。正義感が強く、よく院の職員と衝突している。口も達者な為、トラブルメーカーの一面もある。
そんな事を考えつつ、ベッドから起き上がり部屋の外へと向かう。ステータスウィンドウはカイトには見えていなかったんだなと思いつつ、ドアを開けるとドアの前に女の子が立っていた。
銀髪のボブカットが、同じ衛生環境にも関わらず透き通って見える。整った顔立ちが、何処かの令嬢かと思わせる可憐さだ。
彼女はソフィー。リノの一つ年上の女の子だ。
「リノおはよ。大丈夫?痛いところ無い?」
と、言いながら少し腫れている頬に優しく触ってくる。俺が少し慌てて頷くと
「もう、リノは少し体弱いんだから無理しないで。」
と、腰に手を当ててお姉さんぶって嗜めてくる。
そんな態度に苦笑しつつ
「ソフィーおはよ。早くしないとご飯無くなっちゃうよ。」
と、食堂に向かって小走りに走る。
「あ、待ってよー。」
と、慌てて追いかけるソフィー。
二人で一緒に食堂に入る。既に自分達以外の子供達は集まっていて、食事の準備をしている。
「二人とも遅いわよ。早く準備しちゃって。リノは大丈夫?」
一人の女性が声を掛けてくる。
彼女はシンシア。この院で唯一子供達に優しく接してくれる職員だ。茶色のロングヘアを後ろに一つ結びにしている。年は20歳位だろうか。この子も綺麗な顔立ちをしている。
シンシアはこの院の出身で、恩返しをしたいとの事で住み込みで働いてくれている。他は通いの職員だけなので、朝の食事の用意はシンシア1人で行っている。
年長の子などは一緒に手伝ったりしている。
彼女に頷き返しながら、並べられている食事を自分の皿に乗せていく。自分のいつもの席について周りを見渡す。
この院には、12人の子供が保護されている。リノよりも年上の子供が4人、同年代が3人、年下が5人だ。
昔はもっと沢山の子供がいたらしいのだが、この頃は周りで戦争も無く、街の景気も安定しているらしく、食い詰めて子供も捨てる親も減った事で、孤児が減ってきていると、シンシアが嬉しそうに話していた。
俺達が席に着いたところで、シンシアが合図して皆が一斉に食べ始める。特に食事前の挨拶は無い。
俺は苦笑しつつ、小さな声で「いただきます。」と呟いてから食事をみる。今日のメニューというか、今日も変わらずなのだが、黒パンとクズ野菜のスープである。以上!
本当に毎朝これだけなのだ。育ち盛りの子供に足りる量とは思えないし、俺を含めた年上の子供達は、これから力仕事に出なければならないのに、朝食がこれだけでは力も出ない。
岩の様に固い黒パンをスープにつけて、何気無く周りを見渡した。
カイトは黒パンを意地でも噛み切ってやると、躍起になって顎を動かしている。ソフィーも無言でモソモソと顎を動かしている。他の子達も、物足りなさそうに食事を進めている。
小さな子達の手伝いをしているシンシアも、時折り皆の様子を見ながら、申し訳無さそうな顔をしている。
リノの記憶を追体験した後に、環境を変えなければと思ったが、食事改善が最優先だ。俺は、モソモソと黒パンを噛みながら食事を改善する方法を思案した。
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