49.因縁
「そ、その紋章は一体・・・。」
「それは後ほど。今は目の前の脅威を片付けましょう。」
「・・・っ、そうだね。時間制限付きと言っていたけど、どのくらいだい?」
目の端の魔力残量の減り具合を確認する。
「さっきの動きをするなら、120数える間だけですね。」
「ふむ、じゃあ、さっきの動きの半分程の力で、自衛と僕達の援護を中心に動いて貰っていいかな?」
「僕は構いませんが、大丈夫ですか?」
「伊達に軍学校を首席で卒業してないよ。このぐらいの相手問題ない。」
へぇ、首席だったんだ。首席が軍に入らなかったって学校のお偉いさん達、軍の幹部に大目玉喰らったんじゃないの?ご愁傷様です。
「ちっ!何やってんだ!テメェら!相手は冒険者のガキが4人だけだろうが!1人に3人づつかかれ!」
戦斧を持った大男が、周りの野盗に発破を掛ける。
地味に俺が戦力に入っていないのが腹立つが、戦力を冷静に分析出来ない上司は、害悪以外のなんでもないぞ。それを思い知らせてやる。
現在、野盗は5人が錆びて刃こぼれした長剣、リーダー格の大男が錆びた戦斧、残り10人が木の枝を折っただけの武器とも呼べない武器を持っている。
発破をかけられた野盗が、テンペストのメンバーに襲い掛かってきた。
扇状に広がり、テンペストの前衛3人に数の利で押し込もうと一気に駆け寄ろうとするが、ネルとトニーの槍が横に振るわれ足を止めてしまう。
足が止まったところを、クリスが馬車の屋根から(いつ上がったの!?)速射で野盗3人の太ももを射抜いた。
ルークは、槍の範囲から外れた野盗を1対1、或いは1対2で対峙し、危なげなく戦闘不能にしている。
うまい。この4人は多人数相手の戦闘に慣れている。軍学校出身は伊達ではないってことか。これは、下手に手を出すと連携を邪魔しそうだ。
チラリと馬車の方のアルル達を確認すると、ダルトンが周囲を警戒しながらショートソードを構えている。テンペストの防衛網を抜けるのも難しいだろうし、万が一抜かれても元Dランク冒険者に任せておけば大丈夫だろう。
ならば俺は遊撃に回る。姿勢を低くして、ネルとトニーの後ろを大きく迂回して野盗の側面に回る。野盗の意識がテンペストに向いているため、誰も俺に気づいていない。
さらに姿勢を低くして、後ろに回り込んで、戦斧のリーダーの方へと向かう。取り巻きとして長剣の野盗が1人いるが、意識が完全に前にしか向いていない。
一気に詰め寄り、膝裏を切り付ける。
「ぎゃっ!」
声をあげて膝をつく長剣の野盗。ダメ押しに長剣を持っている手を切り付けて長剣を手放させる。
声に気付いた他の野盗が、こちらに注意を向ける。
「な、なんだこのガキ!」
でも、いいの?俺に意識向けて。
ヒュッ!
クリスの矢が俺に意識を向けた野盗の太ももに刺さる。クリスの方を見ると、親指を立てている。流石だ。
そこに、戦斧が上から振り下ろされてくる。
ズガァン!
先程まで俺がいた所の土が抉れて、土砂が跳ねる。
俺は既に大きく跳び退いており、さっき拾った長剣を構える。
「お前、やっぱりあのガキだよなぁ?」
「どちら様ですか?」
ビキィッ!
俺の挑発に、音が聞こえそうな程の青筋を額に浮かべるが、以前の様に激高する事はなかった。
そう、こいつはリノを殴り殺し、職場をクビになった事を逆恨みして、俺に襲い掛かってきた元現場監督だ。
連行されたこいつが、何故ここにいて野盗のリーダーをしているのか分からないけど好都合だ。リノの仇を取ってやる。
「毎回、毎回イラつくガキだなぁ!あの時は俺が躓いて、上手く逃げられたようだが、今度は逃がさねぇぞ!」
どうやら、俺に投げられたことは無かった事にしているようだ。
「おめでたいのは、顔だけかと思っていましたが、頭も相当ですね。」
「もう、殺す!!!」
「もう殺すのは俺の方だ。御託はいいからさっさと掛かってこい。ドアホウ。」
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