48.形勢逆転
本日、2話投稿しております。前話がありますのでお気を付けて下さい。
「い、いいか、絶対に動くなよ!ちょ、ちょっとでも妙な動きをしたら、こ、このガキ殺すからな!」
「ア、アルル。」
旅人風の男は、アルルに刃物を突き付けたまま、馬車の後方にゆっくりと進む。
「げへへ。オラ、さっきの威勢はどうした。武器を捨てな。そっちのお前らと、上のあんちゃんもだよ。」
リーダー風の男が下卑な笑いを浮かべ、テンペストのメンバーの武器を奪っていく。
どうする。どうする。このまま見過ごせば、俺達は有り金は奪われるが、命は助かるかもしれない。が、アルルは奴らが逃亡するために、そのまま人質にされ殺される未来しか見えない。あいつが馬車から降りたら終わりだ。
何かないか。何か・・・。
目線誘導でステータスを開き、この状況で有効なスキルが無いか探す。
そして、見つけた。ぶっつけ本番だが、躊躇している暇はない!
タイミングが大事だ。アイツが馬車を降りる瞬間、アルルから一瞬でも気を逸らした瞬間に仕掛ける。
少しずつ姿勢を低くして、軸足に力を貯めろ。低く速く、低く速く、低く・・・
乗客の方を向きながら、後ろ向きに歩いていた旅男が、馬車の一番後ろに辿り着き、ステップを降りるために下を向いて、ショートソードを持った手を手摺にかけた。
今だ!
力を貯めていた足を一気に蹴る。一足飛びに旅男に向かう。
ダンッ!と床を蹴る音に旅男が反応し顔を上げるが、その時には俺はもう目の前だ。
そのままショートソードを持った手の手首を蹴り上げる。
ポキッ!と小気味いい音がした。どうやら骨が折れたようだ。
「ぐわぁっ!!」
と、叫び後ろにバランスを崩す旅男。
「クリスさん!」
屋根のクリスに向かって叫びながら、駄目押しの前蹴りを旅男の顔面にくれてやる。
物音に警戒していたクリスが、俺に踏まれてバランスを崩す旅男を見て、咄嗟に飛び降りてアルルを確保する。ナイス!
旅男の顔を踏み台にしてジャンプをし、ルークの横に並んでナイフを構える。
「奪われた武器を取り返します!ついてきて下さい!」
そのまま一足飛びで、突然の事に浮き足立っている野盗の1人、ルークの長剣を持っている男の懐に姿勢を低くして入り込む。驚愕し目を見開いた男の手首をナイフで切りつける。
「ぎゃっ!」
鮮血が飛び散り、男が長剣を取り落とす。落ちて来た長剣を受け取り、後ろに向かって投げる。
そのまま、隣にいた男、クリスの弓を持った男の方に飛び込む。
慌てた男が、弓を叩きつけてきた。そんなテレフォンパンチが当たるわけがない。
だが、このまま避けても弓が地面に叩きつけられて駄目になるかもしれない。
弓を持った手首を掴み、腕を肩に掛けて殴りつける勢いを利用して一本背負をする。背中から叩きつけられた男の手から弓を奪い取り、クリスに向かって投げる。
「もう、皆もっと丁寧に扱って欲しいなぁ。弓は繊細なんだよ。」
そんな愚痴を溢しながら、クリスは弓を受け取ると同時に矢を番、次の瞬間には、槍を奪った男の肩に矢が突き刺さっていた。
見事な早撃ちだ。それを予測していたのか、テンペストの槍使いがいつの間にか接近しており、見事に槍を奪い返した。ルークの方を見ると、そちらも屁っ放り腰の野盗の槍捌きを難なく躱して、懐に入り込むと槍の柄をカチ上げて槍を手放させていた。
こちらも、もう1人の槍持ちが後追いしており、跳ね上がった槍をジャンプして奪い取り、そのままの勢いで野盗の肩口に叩き付けた。
「ネル!トニー!馬車の方へ。奴らを近づけるな!クリスは牽制!致し方ない場合以外は、なるべく殺すな!衛兵の事情聴取が面倒だ!」
ルークが指示を飛ばしながら、俺の方に走ってくる。
「戦力と考えて良いのかな?」
「時間制限付きですけどね。」
と、左手の甲を見せる。そこには銀杯を抱えた竜の紋章が輝いていた。
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