45.昼休憩
俺がダルトンを質問攻めにしている間に、弓使いの彼が戻ってきて、走っている馬車にヒラリと飛び乗った。ダルトンが言うように身のこなし軽いなぁ。屋根の上で、もう一人の冒険者と昼飯について話し合っている。
俺の質問攻めや、昼飯の話をしているうちに馬車は昼休憩をする休憩所に到着した。
俺たちは、レイナさんが作ってくれた弁当があるので、それをそのまま馬車で食べることにした。他のメンバーは、釜戸で煮炊きをしたり冒険者と交渉し対価を払って、ご相伴に預かろうとしている者もいる。
旅人風の人は、携帯食料だろうか、地球のカロリーバーのような物を、ボソボソと食べている。
アルルは、顔を洗いに行って幾分か顔色を良くして帰ってきた。旅人の彼が食べているのを見ると、ダルトンの方を見て目で訴えている。苦笑したダルトンが頷くと、アルルは旅人の所に弁当を持って行った。
「もし、良かったらどうぞ。僕、馬車に酔っちゃって食欲がなくて、全部食べられなさそうなんだ・・・」
「あ、ああ。ありがとう。では、これを頂こうかな。」
「うん、他も食べていいよ。ここに置いておくね。」
そう言って、弁当を旅人の横の座席に置くアルル。
最初は遠慮して戸惑っていた旅人も、俺達が目で促すとガツガツと食べ始めた。よっぽど腹が空いていたのだろう。見物するのも憚れるので、俺達はそっと馬車を降りた。
馬車を降りて、他の乗客が昼食を食べている所にいくと、丁度ボーンラビットが焼きあがったようで、香ばしい匂いが辺りに充満していた。弓使いの冒険者の脇に置いてあるボーンラビットの角が気になった。
「あの、この角って何に使えるんですか?」
「うん? 君は確か一緒の乗合馬車に乗ってた子だね。これはね、釣り針とか矢尻とかに使われるみたいだよ。ボーンラビットの角は他の骨より異常に硬いから重宝するみたいだよ。」
「初めて見たんですけど触ってもいいですか。」
「うん?いいよ。なんならあげようか。嵩張るから持って帰るのも面倒だし、小遣い程度にしかならないし。」
「本当ですか。ありがとうございます。あ、自己紹介が遅れました。リノと申します。」
「これはご丁寧に。僕はクリス。冒険者パーティ「テンペスト」で斥候兼遠距離攻撃役をしているよ。」
「あ、あの、僕大きくなったら冒険者になりたくて、色々お話聞かせて貰ってもいいですか。」
「うーん、じゃあ、昼飯食べて時間があったらいいよ。さすがに移動中は仕事中だから難しいかな。」
「ありがとうございます。では、お昼を食べている間、これを観察してますので声をかけてください。」
そう言って俺は、暇潰しに少し離れた所でボーンラビットの角を観察した。長さは30cm程で、円錐状の形状をしている。先端が細く尖っており、よく見ると細かい返しが無数についている。
一度突き刺したら中々抜けない形状になっているが、額についた唯一の武器の角が抜けなくなったら、自分も追撃出来ないのでは?そう言えば、クリスはこれをどうやって手に入れたんだろうか。頭蓋骨からへし折った?根本側の断面を見てみると、ツルッとした断面になっており、鋭利な刃物で切った様な断面だ。指でコンコンと角を叩いてみるが、硬質な音が返ってくるだけだ。
試しに今朝貰ったナイフで削れるか試してみる。鉛筆を削る要領で、角の根本に斜めにナイフの刃をあててみるが、刃が入っていかない。触った感触とは明らかに異なる硬さだ。ならば次は、角を片手で持ち上段から刃をたてて切るイメージで、引きながら切る。
カキーンと乾いた音をたてて、角の半分程まで切り込みが入った。これはちょっとショックだ。先程と違って今回は切るつもりで振り下ろしたのだが、半分程しか切れなかったからだ。これ以上力を入れると刃こぼれしそうだ。流石に貰ったばかりのナイフを駄目にするのは嫌だな。
「へぇ、君いいナイフ持ってるね。ボーンラビットの角は下手な剣で切ろうとすると、逆に刃こぼれするんだよ。」
「これはどうやって切ったんですか?切断面が凄く綺麗です。」
「ボーンラビットの角は、ある一定方向に側面から力を加えると頭蓋から簡単に外れる仕組みになっているんだよ。獲物に角を突き刺してもそのままなら何も出来ないだろ?自力で外して、後ろ足でトドメの蹴りを入れるのがボーンラビットの攻撃パターンなんだよ。」
まさかの着脱式!
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