42.ダルトンの過去
俺たちのビックリした声に、皆が注目する。
「おや、アルル君も知らなかったのかい?へぇ、じゃあダルトン君は隠してるんだ。では、お姉さんが昔話をしてあげよう。」
「お、おい、レイナ。子供にやめろよ。」
「誰がお姉さんだ。坊主達からしたら、もうおばさんだろうが。あいつ、酔ってんな。」
ダルトンが止めに入るが、レイナは止まらない。
「リグラあとで説教な。さて・・・私やリグラ、ダルトン君が丁度、アルル君ぐらいの年だったかな。この村の近辺に、はぐれのキングボアが出てね。村人や旅行者にも何人か怪我人が出てたんだ。
痺れを切らした村人皆で資金を出し合って、イスタールの冒険者ギルドに討伐依頼を出したんだよ。そうしたら偶々イスタールに居合わせたAランク冒険者が、通り道だからって討伐依頼を受けてくれてね。
しかも丁度、村から見えるところで討伐しちゃったのよ。そりゃあ、男の子があんな場面を見ちゃったら、憧れちゃうよね。突進してくるキングボアを大剣で一振りだもの。
それから、あの2人の興奮のしようったらなかったわ。その日から、木の棒を振り出して素振りの真似事しだすし、パリスさんに懇願して怪我した時の処置方法を教わるし、目標に向かって猪突猛進って感じ?キングボアだけに。
・・・とにかく、冒険者に憧れた2人は、2年後に貯めたお小遣いを持って、村を飛び出してイスタールに行ったのよ。それから3年、何も音沙汰も無かったのに、急に村に帰って来て行商を始めるって言い出してね。何があったんだろうねぇ。」
レイナが、ニヤニヤしながら2人に話の水を向ける。
「む、昔の事は良いじゃないか。」
あまり話したくなさそうなダルトン。
「ほらほら、こんなにキラキラした目で聞きたそうにしている無垢な子供の願いを無碍にするのかい?」
キラキラした目で見つめる俺とアルル。
ダルトンとリグラは2人でお互いを見て、リグラが肩を竦めて首を振った。
「はぁ、そんなたいした話じゃ無いよ。アルルは知っていると思うけど、リノ君は冒険者のランクアップ方法を知っているかい?」
首を振る俺。
「一般冒険者は、ギルド登録当初は全員Fランクなんだ。ギルドへの貢献ポイントがあって、それを各クエストを熟す事で貯めていけば、ランクアップできるんだよ。
FランクからEランクに上がる為の貢献ポイントは100ポイント。Fランクのクエストは都市周辺のクエストで1回1ポイントだから、毎日熟しても最短で100日掛るんだ。
地味なクエストばかりだからね。壮大な夢を持って登録した人間ほど、その落差に辟易してしまう。そして、諦めてしまうんだ。
だけど、僕たち2人は実家の商売を手伝っていたし修行してた頃に宿泊していた冒険者に話を聞いていたから、落差は感じる事無く、順調にポイントを稼いでEランクにランクアップしたんだ。
Eランクからは、イスタール近郊のみだけど、採取クエストや討伐クエストが出来るようになるんだけど、この時にある商人と出会ってたんだよ。」
いつの間にか、俺たち以外の従業員もダルトンの話に耳を傾ている。
「その人との出会いは薬草の採取依頼だったんだけど、通常の冒険者は、薬草の茎から折って納品するだけど、僕とリグラはパリス婆さんに薬草の煎じ方も教わってて、根も利用価値がある事を知っていたんだ。
それで、根ごとその商人の所に納品したらビックリされてね。「こんな丁寧な仕事をする冒険者に合ったことがない。」って気に入られて、通常Eランク冒険者は指名依頼を受けられないんだけど、その人がギルドと掛け合ってくれて、特別にその人からの依頼は僕たちが優先的に受けられるようになったんだよ。
そうやって優遇されると僕たちも単純だから期待に応えようってなって、依頼に対して下調べをして、より期待に応えられる成果を出そうってなっていったんだ。
そうして、2年後にはDランク冒険者になっていたんだけど、すっかりその人の専属冒険者みたいになっていてね。その頃には僕たちも現実が見えてきていて、Aランク冒険者になることは難しいって悟ってね。その商人さんを含め冒険者時代に知り合った商人と取引をする行商を始めたんだよ。」
へぇ、人に歴史ありだなぁ。あと、何気に冒険者のシステムが知れたのはラッキーだ。
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