40.事情聴取
井戸から汲み上げた水で顔や体を拭く。せっかく温泉で温まった体が凍えそうだ。
あの後、「こんな小さな子供に何やらせてるの!本当にダルトン君は相変わらずね!」と美女に怒られながらリグラ邸の裏に俺とダルトン、それから馬車に乗っていた商人風の男の3人は連れてこられた。俺は抱っこされてきた。
最初汚れるからと(精神年齢的にも)遠慮したが、「子供が遠慮するんじゃないよ!」と無理やり抱えられ連行された。
美人だけど、肝っ玉母さんみたいだ。服も脱がされそうになったが、そこは全力で贖って勘弁してもらった。
「彼女は、リグラの奥さん、レイナだ。僕とも幼馴染で・・・昔はお淑やかだったんだけどねぇ。人って変わるよねぇ。」
「なんか、言ったかい!」
「いえ、何でもありません。て、言うか、覗かないでよ。」
「そんな事、いちいち気にしてたら男所帯の運び屋の妻なんて出来ないの!ほらさっさと着替えて中入って。風邪ひくよ!」
レイナさんは体を拭く布と、着替えを持ってきてくれたようだ。改めてレイナさんをみる。青髪のロングヘアーを後ろで一つ結びにして、動きやすい恰好をしている。
背丈はそんなに高くはないというか小さい。150cmないのではないか。けど、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるので、スタイル良く見える。この小さな体で、男所帯を切り盛りしているらしい。
「リノ君、君に合う服が無かったから、私の上着とズボンで我慢してね。裾を曲げれば着れると思うから。血はすぐに洗い落とさないとシミになるから、今君たちの服は洗っているからね。」
そう言って親指で後ろを指す。レイナさんの後ろで、リグラ運輸の従業員であろう若い男性が、一生懸命タライで服を洗ってくれていた。ありがとうございます。
ダボダボの服を着て、リグラ邸へ勝手口から入る。厨房は孤児院と同じくらいの広さがあるようだ。そのまま食堂にいくと、暖かいお茶が用意されていた。
「まだ、あの人たちが帰ってくるまで時間が掛かるだろうし、私も夕飯の準備があるから、これでも飲んで待ってて。」
そう言ってレイナさんは厨房へ戻っていった。3人で温かいお茶を啜る。はぁ、冷えた体が温まる。
「自己紹介が遅れました。イスタールで雑貨屋を営むダルトンと申します。こっちは従業員のリノです。」
「あ、はい、私は行商人のノーリスです。イスタールとクェン帝国の国境街ヨモを行き来しながら、生計を立てていました。・・・ですが・・・もうお終いだ。」
「お辛いでしょうが事情をお聞かせ願えますか。こうやって関わりあったのも何かの縁です。お助けできることもあるかもしれません。」
「・・・あ、ありがとうございます。今朝方、この村からイスタールに向けて先程の2人と出発しました。彼らはヨモの冒険者ギルドで雇ったDランク冒険者です。野党が住み着いていると噂の森については、昨日この村で聞いていたので警戒して進んでいたのですが、森の中腹でいきなり街道を塞ぐように倒木があったのです。
なんとか馬を制御して衝突は避けましたが、行く手を塞がれてどうしたものかと相談しようとしていた時に後ろから奴ら、野党が現れたのです。人数は6人でした。5人は片手剣を1人は戦斧を持っていました。有り金と食料品を置いていけば、命は助けてやると脅してきました。私は命あっての物種と思い、要求されたものを差し出そうとしたのですが、あの2人が差し出しても命の保証はない、逃げようと言い出して・・・怪我をした彼が、食料品を差し出すふりをして受取役に切り掛かって、その間に私が馬車をUターンさせて全力で逃げようとしたんです。
Uターンまでは上手く出来たのですが、馬車がスピードに乗るまでやはり時間が掛かってしまって、彼ら2人も冒険者とは言え、数が劣勢の為に段々と押されてしまって、必死に馬に鞭を入れていたら、悲鳴が聞こえて振り返ったら・・・。」
そのまま、嗚咽を漏らしながら顔を伏せたノーリス。
「辛いことを思い出させて申し訳ありません。後ほど、ここの主人が帰ってきたら寝床を用意させましょう。今日はゆっくりと休んでください。」
「おう!今、ウチの若い奴に部屋を準備させてるから、そこで休んでくれや。」
いつの間にか、食堂の入口にリグラとアルルがいた。
お読みいただきありがとうございます。




