38.温泉
だが、同時に納得もした。ダルトンは無償で俺達、孤児を助けようとしてくれている。これは、誰でも出来るような事ではない。血は争えないという事か。
「ちなみに実家があれ。」
そう言って、温泉の前にある大きな建物を指さすダルトン。
おい!聖人君子!どういう事だ?
俺が訝しげにダルトンを見つめると、苦笑しながら
「利益機会って言っただろ。温泉に入るのにお金は取ってないよ。維持費も、この村の人達から均等に徴収して、皆で維持管理しているんだ。でも、一番立地のいい場所は、掘り当てた爺さんが譲らなかったんだ。爺さん曰く『温泉は無料。誰でも入れる。利益を得る機会は与えた。あと宿泊客を呼び込むのは自分達の努力次第だ!』ってね。僕も正論だと思うよ。もう少し時間が経つと、イスタールを目指す人達で一杯になるんだけど、呼び込み合戦は見物だよ。」
と、建物を迂回しながら話すダルトン。確かに「公共温泉」の看板も、建物を迂回するように矢印が示してある。温泉の利用は公平にしているようだ。
「あと、1つ鐘もすると温泉利用客が一気に増えるから、手早く入っちゃおう。」
がーん!ゆっくり温泉を楽しみたかったのにー!残念!
建物を迂回した先に、小さな建物があり、そこが脱衣所になっているようだ。男女に分かれて仕切りがされており、その先の温泉もそのまま仕切りがされている。
手早く服を脱いで、温泉の脇で体についた汚れをお湯を汲んだ桶で洗い流す。置いてあるヘチマのような植物を乾燥させたモノで体を擦り、垢を落とす。痛い。石鹸が切実に欲しい。もう一度、湯で洗い流してゆっくりと温泉に浸かる。
・・・きもちいいいいい。
「リノ君、手慣れてるね。本当に初めて?」
「・・・ご実家には泊まらなくていいんですか。」
「そこはスルーなんだ。ん-?ま、いっか。それなりに頻繁に帰ってきてるし、両親は早々に宿屋を兄貴夫婦に任せて、悠々自適の隠居生活だからね。帰りにちょっと顔を出せばいいかな。」
「・・・羨ましいですねー。悠々自適の隠居生活・・・。」
「温泉満喫してるね。本当に8歳?アルルなんて、のぼせるって言って既に上がっちゃってるよ。あと、隠居生活が羨ましいって、夢とかないの?」
「・・・夢ですかー?・・・田舎でスローライフ・・・はっ!いえ、ぼ、冒険者になって世界を見て回りたいです!」
あぶね。気持ち良すぎて祐希を出し過ぎていた。自重。自重。
「なんか、急にシャキッとしたね。冒険者かー。君なら良い商人になれると思ったんだけどねー。」
「冒険者になるためにも、資金は必要ですから、まずは商売をして資金を稼ぎますよ。」
「普通の子は、冒険者になって稼ぐって言うんだけどねぇ。君はやっぱり変わってるねぇ。」
「・・・詮索しないんですか?」
「詮索しても話してはくれないだろ?なら、待つさ。君が僕を信用して話してくれるのをね。その方が僕にも君にも利益になると思うしね。」
やっぱり、血は争えないみたいだな。確かに、まだ出会って間も無いダルトンを信用しているかと聞かれると、否だ。何処かで信用しきれていない自分がいる。あと、本当の事を話して信じて貰えるかも分からない。
「さて、そろそろ人も増えてきそうだし、出るとしようか。」
温泉に入って、体はサッパリとしたが、心にはモヤっとシコリが残ったままだった。




