36.油断大敵
デニムの部下が持ってきた情報は、なかなかにきな臭いものだった。
「この先の森に、2~3日前から野党が住み着いていると・・・。」
「えぇ、単独の旅人や行商が襲われているようです。私達は大丈夫でしょうが、念の為、スピードを緩めて警戒を厳にして進みます。多少到着が遅くなってしまいますが、ご了承ください。」
「多少遅れようが、安全第一で行きましょう。」
と、いう事で休憩後速やかに出発することになった。次の休憩所で昼休憩の予定だが、少々遅くなるようだ。また、乾燥パルムの試作品を見てもらう事が出来なかった。昼休憩時に見てもらおう。
さすがに、警戒中に一緒に走るわけにはいかないので、今回は大人しく馬車の中で過ごす。
朝よりもゆっくりの為、揺れも多少軽減されている。が、体幹と三半規管が未熟な為、少しづつ気分が悪くなってくる。アルルはすでにダウンして、横になってしまっている。
と、その時ピリリと首筋に悪寒が走った。
下げていた頭をガバッっと上げる。
「どうしました?リノ君。」
不審に思ったダルトンが聞いてきたが、すぐに悪寒が納まった。
「いえ、何か変な感じがしたのですが、気のせいでした。」
気のせいでは無い。この感覚は一度感じた事がある。
あの大男に襲われた時だ。大振りの一撃を繰り出してきた際に、確かに似た感覚を感じた。そう殺意だ。
先程の感覚は、それに比べれば微々たる感じだった。俺に対してというよりは、馬車全体に対しての悪意か。野党がこの馬車に目をつけたが、人数の多さに諦めたのか。
「そろそろ森を抜けます。恐らくもう大丈夫でしょう。」
外から見張りの声がして、皆の緊張感が弛緩した。
「馬鹿野郎!!まだ森は抜けてねえだろうが!いつも言ってだろう!油断した時が1番危ねぇんだよ!」
デニムが、従業員を一喝する。
俺達3人もビシッと背筋を伸ばす。アルルは横になったままだが。
「あ、すいません。ダルトンさん。お客人の前で大声出してしまって。」
「いえ、積荷や私達の事を考えての事です。身の引き締まる思いでした。」
「狡猾な奴は、こういった瞬間を狙ってくるんです。日頃から口酸っぱく言ってるんですがねぇ。なかなか成長しねぇですよ。」
油断禁物だな。俺もあの感覚が無かったから、自然と気を抜いていた。中には悪意や殺意を隠すヤツもいるかもしれない。この世界は日本とは違うのだ。外は常に危険があると思って気を抜いちゃダメだな。常在戦場だ。
森を抜けても、暫く周囲への警戒を行いながら進み、どうにか次の休憩所に到着した。
「よし、ここまで来れば大丈夫だろう。昼休憩としましょう。」
デニムの言葉に、皆大きく息を吐く。
リグラ運輸の面々は、すぐに昼食の準備を始めた。
アルルは、フラフラと井戸に向かっている。口を濯ぎに行ったのだろう。
俺とダルトンは、お互いに目を合わせて苦笑し、昼食の準備を手伝いに行く。昼食は、肉と野菜が入った麦粥だ。だが、体力仕事なので、量が半端ない。リグラ運輸の人達はガツガツと食し、おかわりしているが、俺やダルトンは大きめのお椀一杯で十分な量だった。アルルは殆ど口を付けることができないほど消耗している。
「アルル、何か口にしないと午後持たないよ。」
「・・・気持ち悪くて、これ以上は無理・・・。」
「これなら、どうかな?」
俺は、乾燥パルムの試作品をアルルに差し出した。
「・・・これは?」
「僕が作ったドライフルーツだよ。甘くて美味しいから口にし易いと思うけど、どう?」
アルルが恐る恐るパルムを摘んで、口に放り込んだ。
「あんまっ。」
思わずと言う感じで、感嘆の声を出すアルル。
「皆さんもいかがですか?少ししか無いので、一切れづつになってしまいますが。」
ダルトンやリグラ運輸の人達にもお裾分けする。
「これは、疲れた体に染み渡る甘さですねぇ。」
「「「「「うんまぁー!!!」」」」」
「リノ君、原材料はなんだい?」
「・・・今は、企業秘密という事で。」
「ほう・・・。」
ダルトンの目が若干鋭くなり、商売人の目になる。
「ダルトンさんなら、これ売り出す事は可能ですか?」
「甘味は貴重だから、間違いなく売れるね。量産は?」
「今はまだ難しいですね。ゴタゴタが片付けば目処が立つかもしれません。」
「ふむ、では目下の厄介ごとを片付けたらまた、話し合いましょう。いやー、しかし本当に美味しいですね。」
資金稼ぎ第一弾は目処が立ちそうだ。
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