32.子供達の夢
いつもより豪華な食事に、大はしゃぎしながら舌鼓を打つ子供達を眺めながら、俺も食事を進める。
「リノ、おいしく無いの?」
「ううん。あまりにも豪華だから感動して胸がいっぱいなんだ。」
「え、じゃあ、これ要らないのか?いただきー!」
カイトが、俺の皿にあるボア肉のステーキの切れ端を、取ろうと手を伸ばしてくる。
因みに、孤児院では手掴みで食事が基本だ。スープも器から直飲みだ。上流階級はカトラリーがあるのかもしれないが、一般庶民は手掴みなのだ。
カイトの手が、俺の肉に触れる寸前にカイトの頭にゲンコツが落ちる。
「いてー!誰だっ!って、ボーノ!」
「人の物を取るな。」
「どんなスピードで俺の後ろに回ったの?お前の席あっちだよね?ってか、俺の頭をポンポン叩くなよ!バカになるだろ!」
「元々バカだから、これ以上悪くならない。」
「それ、ひどく無い?」
ワーワー、大騒ぎするカイトを見て、皆が笑っている。皆良い笑顔だ。
大騒ぎしながら、夕食を終えて皆で片付けた後、いつもなら直ぐにお腹空かないように、部屋に戻って寝るのだが、今日は皆満腹の為か大広間に集まって、まったりと過ごしている。年少組の子はウツラウツラとしているが、年長組が起きているので頑張って起きようとしている。
「そう言えば、仕事は決まったのか?リノ。」
「うん、明日からダルトン商店で働く事になったよ。」
「お、それは良かったな。おめでとう。しかし、羨ましいぜ。土木作業やらなくていいなんて。」
「なんか、ごめんね。僕だけ・・・」
「バカ、気にすんな。お前はあんな事あったんだし、そもそも、お前の年じゃ力仕事は早すぎんだよ。それに、最近お前を殴ったあの監督、アイツ来てないんだぜ。前よりちょっと楽になったんだぜ。なぁ?」
周りの男の子達が、ウンウンと同意する。
「皆は、もう土木作業しなくても良いってなったら、何したい?」
皆の希望を聞いてみる事にした。
「うーん、ここにいる間は考えられない話だけど、もしの話なら、冒険者かな!冒険者になって、俺は英雄になるんだ!」
と、カイト。
「冒険者って、子供でもなれるの?」
「正式な冒険者になれるのは14歳、成人してからだけど、10歳から見習いとして街の中限定のクエストは受けられるんだぜ。」
「へぇ、そうなんだ。見習いの時から冒険者してたら、正式な冒険者になった時に、特典・・・良いことあるのかな?」
「わかんね。でも、早く冒険者になってれば、手っ取り早く英雄になれるからな!俺はこの孤児院出たら、直ぐに冒険者に登録するぜ!」
子供らしい発想で眩しい。が、少し無謀な気もする。もう少し大きくなったら現実を知って貰う事も必要かもしれない。
「ボーノ兄は?」
「コイツは危なかっしいから、一緒に冒険者になる。監視する。」
あ、ブレーキ役がいた。なんか、いいコンビになりそうだ。
「なんでだよ!」と、騒ぐカイトを他所に、他の男の子にも聞くと、今の仕事が無ければ冒険者になりたいとか、兵隊になりたいと、皆、英雄思考が強いようだ。
「だけど、結局は、今の土木会社に入って、働かなきゃなんだろうなぁ。」
誰かが、ボソッとそう呟いて、満腹感と将来の夢を語っていた幸福な気持ちが一気に萎えた。
「なーに、しょぼくれてるのよ!私がこの美貌で、お金持ちを捕まえて、あんた達全員を養ってあげるわよ!」
声のした方を見ると、仁王立ちになって両手を腰に当ててふんぞり返っている女の子がいた。彼女はバニラ。金髪の髪を後ろでクルッと纏めて、ちょっとキツイ印象の目だが、ハッキリとした目鼻立ちは、本人が言うように将来美人になるだろう。カイト達と同年代の12歳だ。
「だから、リノ今度、ダルトンさんを紹介しなさい。あの方は、この先必ず成功されるわ。今からお見知りおき頂くのよ。」
歳の差いくつやねん。ダルトンの歳はわからないけど、あの渋い見た目と落ち着き様からして、30後半、下手したら40代だぞ。犯罪もいい所だわ。
「こ、今度ね。」
とりあえず、先延ばし作戦でお茶を濁す。
「今度と、婚期は待ってても来ないのよ!いつ、いつ合わせてくれる!?」
婚活女子か!めっちゃアグレッシブだな。まだ、12歳だろ。マセすぎじゃないか?成人が14歳とすると、そうでも無いのか。いやいやいや、俺の常識からしたら早すぎるわ。
「バニラ、リノが困ってる。いじめないで。」
「いじめて無いわよ。ソフィーは、まだ時間があるしリノがいるからいいけど、私はもう時間が無いのよ。」
「リ、リノは関係無い。まだ、2年あるよ。焦ることは無いと思う。」
「2年しか無いのよ。ボーっとしてたら、婚期を逃しちゃうわ!」
マジもんの婚活女子でした!
お読みいただきありがとうございます。




