2.追憶
最初におぼえているのは、あたたかい手だった。
やわらかくて細い手で、やさしくなでられた後に、
大きくてゴツゴツした手で、同じく、やさしくなでられた。すごく幸せな気持ちになった。
でも、その幸せな気持ちは長続きしなかった。
次に思い出せるのは、ずっとお腹が空いていて、いつもご飯の事を考えてた。
周りの大人たちは、1人の女の人以外、みんな冷たくて、たまに殴られたりもした。怖くていつもオドオドしていた。
年上の子や、同じ年くらいの子、僕よりも小さい子と、いっしょにくらしていた。みんな同じように冷たくされていて、時に殴られていた。
優しかったのは1人の女の人、シンシアお姉ちゃんだけだった。シンシアお姉ちゃんは、朝から夜まで僕たちのお世話をしてくれて、自分も疲れているはずなのに、わるぐちやイヤな顔もしないで、いつもニコニコとお世話をしてくれた。
みんなシンシアお姉ちゃんが大好きだったから、いっぱいお手伝いしたんだ。失敗ばかりしてたけど、シンシアお姉ちゃんは笑ってゆるしてくれた。
僕たち子供のきょうつうてんは親がいないことだった。ここがこじいんと呼ばれているのを聞いた。
年に一度だけ、ご飯がたくさん食べられる日があった。何日もまえから、庭や、へやをそうじして、あたらししい服も着させてもらえるんだ。あいさつや歌、ダンスの練習もいっぱいするんだ。
その日は、大きくてすごくキラキラした馬車が何台も孤児院に入ってくる。すごくキレイで高そうな服を着た、おじさんやおばさんが馬車から降りてくる。中には同じ年くらいの男の子や女の子もいた。着ている服は比べ物にならないくらい高そうな服を着ていたけど。
みんなで整列して、そろってあいさつをする。いつもはご飯を食べる大部屋に、いっぱい飾りをつけて、お客さまをお出迎えする。
歌をうたって、ダンスを見てもらう。大人たちは喜んでくれているが、子供たちはつまらなそうだ。いっしょうけんめいやっているのに何がいけないんだろう?
ご飯の時間になると、僕たちは大歓声をあげる。
いつもは食べられないような物をたくさん食べられて、みんなニコニコだ。でもやっぱりお客さまの子供たちはつまらなさそうだ。
帰るお客さまをお見送りしている時にひとりの子供がお父さんに
「こんなミナシゴたちの、つまらない出し物に付き合ったんだから、帰りにおもちゃ買ってくれる約束忘れないでよ」
って、言ってた。ミナシゴってなんだろう?
しあわせな時間はあっという間に過ぎて、また普段の生活が戻ってくる。少し年があがると、年上の子達と一緒に仕事に出なければならなくなった。
大きな石や、沢山の砂を運ぶ仕事だ。ご飯も食べられていないのに力仕事をして、少しでも砂をこぼしたり、石を落としたら思いっきり殴られた。
今日も僕は大きな石を運んでいて、足をもつれさせて転んでしまった。
しかも、現場監督さんの目の前で。だって睨まれて怖かったし、お腹がすいて足が動かなかったの。
持っていた石を、運悪く監督さんの足の上に落としてしまった。
大激怒した監督さんから何回も、何回も蹴られ殴られた。殴り飛ばされて口に砂が入る。殴られたことで口の中を切って血があふれてくる。
だんだんと目が見えなくなってきて、音もしなくなってきた。
あぁ、またご飯いっぱい食べたいなぁ。
お読みいただきありがとうございます。