18.本当の孤児院の姿
「え!攻撃魔法って貴族しか使えないんですか?」
「攻撃魔法だけではなく、一般庶民は、生活魔法以外の魔法は使えないよ。」
ガーン!俺の魔法で無双計画が潰えた。
「魔法だけでなく力というものは、国家の根幹を覆す力を持っているんだ。為政者はこの力をコントロールしないと、すぐに国は崩壊してしまうんだよ。」
「でも貴族だけでは、国の武力は賄いきれないのではないですか?」
「力はなにも魔法だけでは無いよ。スキルや経験だって立派な力さ。一般庶民も軍隊に入れさえすれば、効率的に、攻撃的なスキルを得る方法を教えて貰えるからね。各国の軍隊は定期的に人員を募集して、軍事力を維持し、それを国がコントロールしているというわけさ。」
「荒事が嫌な人間もいるのでは?」
「そういった人は、そもそも国を武力でどうこうとは考えないだろ?正攻法で国を良くしてくれるなら、願ったり叶ったりなんじゃないかな?」
確かに。
「さて、また話が逸れてしまったけど、創始者イスタールの話に戻そうか。彼の逸話の中に、孤児達を保護する話があるんだ。3国の戦争が小康状態になって10年とはいえ、その傷跡は各地に残っていたんだ。各国の農村部では口減しの為に、子供を捨てなければ生きていけない家もあったんだ。
イスタールは、そういった子供や戦争孤児を、積極的に集めて保護したんだ。保護された子供達が成長し、ある者は、イスタール行政の長になって、イスタールの発展の礎になったり、ある者は、軍を指揮して都市の防衛方法の基礎を作ったりと、孤児たちみんなが、イスタールの為に働いたらしい。
ある逸話に、孤児の1人が、『なんで僕達を助けてくれるの?』と、イスタールに聞いた時に、『子供を大切に出来ない国は、いつか滅びる。弱き者ほど、積極的に助ける事が、力ある者の責務と俺は思っている。』と、答えているんだ。
本当に彼が、そんな事を言ったのかは不明だけど、前半の言葉は真理だと、僕は思っているよ。そう考えているこの国の有力者は結構多くてね。この都市は、福祉事業に結構力を入れていて、孤児院も公共事業として運営しているんだ。街には、4つの孤児院があって、ここからが重要な事なんだけど、毎年少なく無い予算が組まれているんだ。それこそ、子供達が働かずとも、初等学校に通えるだけの予算は出ている。」
「えっ・・・。それって。」
「リノ君達が、学校に行っていない事は、個人の自由だから問題ないけど、働きに出ているのに飢えていたり、ボロボロの服を着ているのは明らかにおかしい。」
「誰かが予算を着服しているって事ですか?」
「誰かと言うよりは、十中八九、院長だろうね。話を聞く限り、シンシア嬢以外の職員も一枚噛んでるね。」
「シンシアお姉ちゃんはなんで・・・?」
「あのお嬢さんは、孤児院を出て直ぐに、あそこで働いていると聞いてるよ。あの子が保護されている時から、今の状態が続いていたのであれば、それが普通と思ってしまって、現状をちょっとでも良くするのが精一杯だったんだろうね。僕も中々ツテが無くて、シンシア嬢の事を知りながら、手出しが出来なかった。それで君達に苦しい思いをさせていただろう。すまない!」
そう言って、ダルトンが頭を下げる。
「あ、頭を上げて下さい。ダルトンさんは悪くないです。悪いのは、悪いのは子供を喰い物にしてる大人達です!」
そうか。リノは、あんな苦しい思いをしなくても良かったんだ。院長達が予算を着服していなければ、飢える必要も無かったし、働きにも出なくても良かった。そうすれば、殴られて命を落とす事も無かったんだ。
直接的な仇はあの大男だが、もう1人仇を取らなきゃいけない相手ができた。
バーバラ、お前は必ず報いを受けて貰うからな。
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