17.自由貿易都市イスタール
俺は、リノの記憶にある孤児院の生活をダルトンに話した。食事事情、職員の仕打ち、仕事の処遇など、リノが覚えている限りの事を伝える。話を聞いているダルトンが、胸の前で拳を強く握って、何かに耐える仕草をしているが、俺の話を遮る事はしなかった。
俺の話を聞き終えたダルトンは
「なんだ、それは!何故そんな酷い事が出来るのだ!」
と、怒声をあげた。突然の大声に若干ビックリする。
「あ、すまない。僕とした事が、あまりの酷さに我を忘れてしまったみたいだ。リノ君は何も悪くないよ。」
慌てて謝罪するダルトン。やっぱりこの人は良い人だ。見ず知らずの孤児の為に、ここまで怒れる人は中々いない。
「突然でビックリしただけですので、頭を上げて下さい。でも僕は、孤児院は、これが普通の待遇と思っていましたが、他は違うのですか?」
「僕も直接確認した事はないけど、知り合いに福祉事業に寄付している人がいてね。その人から聞いていた話と、リノ君の話が、余りにもかけ離れ過ぎているんだ。」
「ぼ、僕は嘘はついてないですよ。」
「君が嘘をついているなんて思ってないよ。その格好や体の線の細さを見たからこそ、君の話を聞こうと思ったのだから。」
「あ、あの出来たら、その福祉事業や他の孤児院の事を教えて貰っても良いですか?」
「うん、君はやっぱり見た目と違って聡明だね。さっきの説明も、理路整然としていて分かりやすかったし、大人の商談相手と話をしているようだよ。」
あ、ちょっと地を出し過ぎたか。気を付けよう。
「昨日、殴られて気絶してから妙に頭が冴えているんです。」
「そ、それは大丈夫なのかい?」
「体調も良いですし、気分も悪くないですから問題ないと思いますよ。」
「そ、それなら良いのだけど、一度医者に診てもらった方が良いかも知らないよ。」
「う、うん。シンシアお姉ちゃんに相談してみます。それで・・・」
「ああ、そうだったね。話が逸れてしまった。リノ君はこの街の、イスタールの成り立ちを知っているかい?」
首を横に振る。
「この街は、自由貿易都市イスタールと言って、どの国にも属していない自治都市、では分からないか。そうだねー、自分達だけの力で、外敵から身を守って生活している都市って意味だ。
その昔、この場所は西のイーリス王国、東のクエン帝国、南のアレクサ連邦国に挟まれた、緩衝地帯、国同士が手を出せない土地にある街道の宿場街だったんだ。3国は、それまで常に小競り合い的な、戦争を行なっていたんだけど、200年前、各国の戦争が小康状態、戦争が無い状態が10年続いたんだ。
そうすると、その街道は3国を行き来する人々で賑わい出してね。これを機とみた1人の商人が、全財産をつぎ込んで、宿場街を行き来する人が必要と思われる物を売り出したんだ。
この商売が直ぐに波に乗ると、その商人が次に取り掛かったのが、街道沿いの宿や店、土地を買い占めて、商売人に貸し出し、関税、税金を商品に掛けて、集める事をした。人と物が、何もしなくても集まってくる場所な訳だから、その商人は、直ぐに巨万の富を得たんだ。
面白くないのは、緩衝地帯に接する3国の領主達だ。ポッと出の商人に、金の成る木である街道を押さえられてしまったのだから、面白いはずがないよね。
しかし、この時既に商人は、3国の有力者と話を付けていて、3国それぞれの軍の駐屯地を、宿場街の近くに商人の費用で造設し、1国が武力で街を手に入れようとしても、他の2国が直ぐに駆けつけられる様にしたんだよ。3竦み状態の間に、どんどんと街を大きくしていった商人は、駐屯地までも取り込んで独自の軍備を得て、今の都市の原型を造った。
この商人の事をこの都市では創始者として、その商人の名前を都市の名前とし、商売人は皆神の様に崇めたて祭っているんだよ。」
「凄い人だったんですね。」
「創始者イスタールの、伝説的逸話は百を下らないかな。商売に関する逸話が多いけど、話術で貴族を説き伏せる話や、魔法を使って襲撃者を撃退したとかいう話もあるよ。攻撃魔法が使えた事から、出自は、何処かの貴族ではないかと言われているけど、詳細は不明のままなんだ。」
え???
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