14.孤児院の今後
「では、君に次の院長をして貰おうかな。」
「「・・・え!!」」
皆が一斉に驚く。
「あれだけの職員が汚職で逮捕され、それを補充するとなると、それなりに時間が掛かるだろう。それまでの間、レイモンドの所の職員を借りるとしても素人同然だからな。経験者は必要だ。暫くの間は院長代理としてこの院を運営して貰いたい。お金の面は・・・ダルトン。君、孤児院経営には興味はないかい?」
「へ?・・・はっ!し、失礼しました。こ、孤児院経営でございますか?」
「うん、実はここ数年、福祉系の予算が増加傾向にあってね。税務係が悲鳴を上げているんだ。始祖の思想もあるし、減額するわけにもいかなくてね。そこで持ち上がったのが半官半民による孤児院経営なんだ。民間で切磋琢磨している商人に経営を任せてみて、経費を圧縮できないかとの意見があってね。モデルケースとしてこの院を経営してみないか?監査役は付くが、君の好きなようにして貰って構わないよ。」
「わ、わたくしで宜しいのでしょうか。」
「最初はレイモンドにお願いしようとも思ったのだがね。聞けば、君がこの院の窮状をリノ君に聞いて、動いたというじゃないか。そういう者にこそ任せてみたいのだよ。院長代理となるその子とも知らない仲ではないのだろう?」
「・・・やります!いえ、やらせてください。」
ダルトンが決意の固めた目でリディアに返事をした。
「よし、決まりだ。正式な任命は追って連絡をするから、その時は2人で行政庁に出向いてくれ。」
「「はい!」」
ダルトンとシンシアが元気に返事をする。希望に満ちた若者は眩しいねぇ。ま、俺も今は8歳の子供だけども。子供達もシンシアが院長になると聞いてうれしそうだ。
「それと、リノ君。今回の立役者である君にも何かご褒美を上げないとだね。何か欲しい物はあるかい。」
「え?ぼ、僕は、な、何も・・・。」
「何もしていないなんて言わせないよ。長年見つける事の出来なかった横領や汚職を、君の勇気ある行動で白日のものに出来たんだ。これで報酬が何も無しなんて事をしたら、それこそ始祖に顔向けできないよ。さぁさぁ、何か欲しいものはないのかい。」
グイグイと迫ってくるリディア。お、押しが強いなぁこの人。
「お嬢様。急にそのような事を言われてもリノ様が困っておりますよ。ここは少し時間を空けられては如何ですか。」
「セバス!お嬢様と呼ぶなと何度も言っているだろう。・・・ふむ、確かに急に言われても思いつかんよな。セバス。次にスケジュールが空いているのは何時だ?」
「2日後の豊潤の月22日、午前5の鐘から6の鐘の間が空いております。」
「よし!ではリノ君。明後日の午前5の鐘前に迎えを寄越すから屋敷まで来てくれ。それまでに欲しいものを考えておいてくれよな。では、私は後始末があるのでこれで失礼するよ。」
そう捲くし立てて、リディアはセバスさんを伴って去っていった。
「あ、嵐みたいな人だなぁ。」
俺がボソッ呟くと、ダルトン横に来て
「不敬罪で捕まるよ。なぁんてね。あの方は良くも悪くも行動力があるんだよ。だけど、第一にこの街に住む民の事を考えてくれる方さ。それで、欲しいものは何か思いつきそうかい。」
「今は、まったくです。どこまでのものを要求すれば良いんですかね。」
「あの方なら大概のものなら要求に答えて貰えると思うよ。それこそ家でも用意してしまうかもね。」
も、持ち家かぁ。確かに自分だけの拠点があるのは魅力的だなぁ。だけど、
「維持費の目途が立たないので無理ですね。」
「夢が無いねぇ。」
「もう少し時間があるので考えてみますけど、物じゃなくても良いですかね。」
「リディア様が用意できるものであれば何でもいいだろうね。物じゃ無いってことはお金かい?」
「ちょっと思いついたものがありまして。・・・今は内緒です。」
何はともあれ、一件落着かな。
お読みいただきありがとうございます。評価・ブックマーク頂けると嬉しいです。




